第17話 Xコア推論
ムーンは、一人研究室の中、以前に発掘した古文書の全てを見直していた。
「何処かにある筈だ、真球率を高める方法が――」
それは確信では無く、ただの希望だった。
だが、ほとんどの古文書に、それ単独では意味の無い形で、ヒントが掲載されていた。
恐らくは、この技術が遺失されることを想定して。それでも、それ相応の努力の成果として完成するように、ジグソーパズルの断片のように散らばしてある。
そして、そのジグソーパズルのピースの殆どを、既にムーンは集めきっていた。
「――一部、完全に遺失したピースは、想像で予想で論理的思考によって、或いは閃きで、埋めるしか無い。
まぁ、既に殆どは想像出来ているがな」
まずは、Bio-ECS――BECSで代用しているコアの作成から始める。個人用では無い為、そこそこ大きなコアで真球率を高めれば、凡そ直径50㎝程度で真球率『99.999999999%』位は達成できそうだ。
――要は、”慣れ”だ。
ムーンは、最終的にXコアの真球率を高める上で、最も重要な要素をソレだと判断した。
何度も何度も執拗に、Xコアを作成する。それも、限界を超える位の気持ちで、全力を用いて。
同等の技術があるならば、小さなXコアを作るより、大きなXコアを作る方が真球率が高まるのは論理的に明らかだ。
故に、今回は直径50㎝。
目標は、都市全域をフォロー出来るだけのXコアならば、直径30㎝を目指していた。
幸いにも、コアをコントロールするコンピューターは熱を発してくれる。そして、その熱をXコアはエネルギーを操る切っ掛けのエネルギーに変換出来る。好循環が生み出される筈だ。
問題は、例えば限りなく100%に近いXコアが、出力の最大効率形態なのか否かだ。
ムーンは、ある根拠を基に、それに『否』という結論を出した。
「先人の知恵を借りようか」
目標は、限りなく100%に近い、正八面体Xコア。『Alpherion結晶』が正八面体の結晶の為、真球よりもずっと高い正確率の正八面体Xコアを作る事が可能な筈だ。
一辺15㎝の正八面体Xコアで、恐らくは『99.99999999999%』位の正確率を弾き出せるだろうと、ムーンは予想を立てた。
水槽に、未だ超純水は十分に残っている。
ならば、試さない理由は無い。
ムーンは、念の為に『αシステム』で超純水の中の微細な埃等を取り除いてから、水槽に手を入れ、念じた。
――出来る!
ムーンがそう思った瞬間だった。
ピカッと水槽の中から光が放たれ、ムーンの研究室は、爆発で吹き飛んだのだった。