Locust

第18話 Locust

いなごをコントロールするサイコソフト?」

 楓は、隼那がストレートに聞いた言葉に対して、同じ言葉で確認を取った。

「ええ。特に、大発生させて農作物を駆逐するようなサイコソフト」

「……あるけど、渡さない。アレは暴走したら、洒落にならない」

 場所は、疾刀の職場。今は、楓も所属している。

 そもそも、アポ無しで面会を受け入れたのが十分な妥協だきょうなのだ。

「まず、違法的行為で対抗するのを止めてくれないと、コレ以上の協力は出来ない」

「ソレは無茶な要求ね。向こうも違法的行為で敵対しているの。合法の範囲内で対処できる案件じゃないわ」

「なら勝手にして。私はコレ以上、協力出来ない」

 こうもけんもほろろに断られるとは思っていなかった隼那は、次ぐ言葉を失った。

「でも!サイコソフトはあるんだろう?」

「――厳密には無い。ソフト化を躊躇う程には驚異的なサイコソフトだったの」

 喰らいつく恭次に、楓は冷たい言葉を吐く。

「……金か?金の問題なのか?」

「そもそも、前回の支払いも、未だ振り込まれていない。

 話をしたかったら、振り込んだのを確認してから来て」

「か――仮に、そのサイコソフトに価格を付けるなら、幾らだ?!」

「金額の問題じゃないけど、6兆円。その位の被害額は出せるサイコソフトだから」

「ち、兆⁉」

 金額の桁の違いに、恭次は狼狽える。

 世界中で蝗害こうがいが起これば、確かにその位の被害額は出るだろう。それ相応の餓死者も。

「だから、売れない」

 楓は結論をスパッと言い切った。

「だから、帰って」

 買える訳が無い。だけど、帰らなければならない。

 そのツラい事実に、二人は硬直する。

「ねぇ。命名権に関して、私たちは譲歩したわよねぇ?」

 隼那が、そんな今更な話題を持ち出す。

「SCAI『式城 総司郎』。先に命名されたから、私たちはその名を名付けたかったのに、一歩譲った。

 その件の貸しに対して、私たちは今まで何も要求して来なかった。

 でも、今はその貸しを何らかの形で返して欲しいわ」

 これには、楓も眉根を寄せる。その、12歳前後にしか見えない子供が、普通はする表情では無い。

「名前ぐらい、同じ名前を付けても良かったのではないですか?」

「紛らわしい。だから、私たちは譲歩した。

 今回はあなたが譲歩して欲しいわ」

 楓が長く息を吐いた。

「レベル9能力者。それ以上でなければ、『Locustローカスト』は扱えません。

 心当たりはありますか?」

 一見すると、ソレは譲歩だった。けれど、レベル7以上は、伝説級の超能力者のレベルだ。

「――居ないわ」

「なら、諦めて」

 はい、そうですかで済まされる話なら、隼那はココまで突き詰めなかった。

「判ったわ」

 隼那は確かにそう言った。

「協力して頂戴、楓ちゃん」

 ソレは極論にして隼那の希望に沿う一つの方法と思われたが。

「私が使っても、暴走する。だから、協力も出来ない」

 スゲも無く断られ、隼那も恭次も、諦める他、無いのであった。