第11話 Bio-ECS
午後イチの『αシステム』理論学は、アースにとって中々興味深いものだった。
「――つまり、月と太陽と他の天体による影響を受けて、『αシステム』はそれぞれ、時によって発動が出来なくなる能力が存在し、それらの影響に干渉する手段として、『大アルカナ発動』と云う機能が備わっています。
この機能は、未だ覚える必要はありませんが、『αシステム』の能力を安定して発揮するにはとても重要な要素となっており――」
「――分かるか、アース嬢」
「うん。面白いよ。
あとで分かりやすく教えてあげる」
リックは、とうの昔に机に突っ伏して眠っていた。
面白がっているのは、どうやらアースだけで、カメットのように頭から煙を出している生徒の方が、大半を占めていた。
「――但し、大アルカナ機能は、一度使うとしばらくの間、その機能を使う事が出来なくなり、『αシステム』の基本能力である小アルカナ機能が発動出来ない周期に入った時に、一切の機能を停止する可能性もあり、緊急時以外には使わない事がペクサーの常識であり、まだ諸君らには、しばらく教える事をしません。
従って――」
カメットは、アースに耳打ちする。
「簡単に云うと、どういうことなのだ?」
「『αシステム』が意外と不便だ、っていうこと。
それと、不便な機能を便利に使う為の、基礎理論――かな?」
それを聞いたカメットは、理解の努力を放棄した。
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扉が開き、X機関の心臓部への侵入を知らせる警報が鳴り響く。
「風、氷、闇――中々、悪くない。
これなら、制圧が出来るかも知れぬ」
「じゃ、任せた~」
スターを残したまま、ムーンは進む。
「一都市のエネルギー源を確保する為とは云え、やはり、バイオXの利用はリスクばかりが高いな。
研究を、もっと進めたいが」
その区画に、禁呪による損傷は見られないが、警告を示す為だろう、照明が赤く明滅している。
「――コアの製法さえ確立すれば、そう難しくはないのだが。
それが最も難しいという話だな」
やがて、心臓部を封じた金庫が現れる。
冷気を孕んで、白濁した優しい風が流れる。
「――封印は、解けていない、かも知れぬ。
だが、確認せねば」
その金庫の封は、驚く程簡単に解けた。
掌を当てて指紋その他の照合が行われただけで、物理的な力をほとんど必要とすることなく、開く。
ドクンッ、ドクンッ、という心音にも似た音が響く。
金庫の中身は、氷漬けにされた、小さなドラゴンだった。
「ホワィト……。ありがとう、これならば、復旧に俺の尽力は必要不可欠というほどの状況ではない。
物理的な損傷さえ直せば、機能は復旧の目処が立つ。
しかし――」
ムーンは一つ嘆息する。
「このサイズで、発揮出来る性能では無い筈だがな。
俺の研究では、直径8メートルのサイズのコアを使わねば、同等の性能は発揮出来ない。
まだまだ、俺の研究ですら序の口なのだろうが、コレを創り上げた輩は、天才の一言では言い尽くせぬ……」
ムーンは、金庫の扉を閉ざした。
元来た道へと戻ると、スターに「俺の協力が無くとも、復旧が可能だろう」とだけ報告し、帰還する事にした。
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深夜12時過ぎまで、アースの『αシステム使用法講座』が開かれ、新入生の半数ほどが集まり、2・3人ほどだが、上級生の姿も見られた。
カメットとリックの二人も、基礎的な使い方はそれだけで習得に至った。
翌日、カメットとリックの姿は、教室に無かった。
アースは不思議に思ったが、教員による伝言で、『特殊任務に招聘された』と聞いて、恐らく王子様と一緒なのだろうと、彼女は納得した。