勝敗を決す

第44話 勝敗を決す

 考えてみれば、ケントと戦うのは初めてだ。

 真次とも戦った事は無いが、圭とは『エデン』での初めての戦いで、当たったことがある。
 
 ――君、ひょっとしてジャックのプレイヤー?
 
 三か月ほど前……だったか。圭と同時に筐体を出た時に、圭に言われたその言葉が、俺と三人との出会いであった。
 
 ……ああ、そうだけど?
 
 俺はそう答えた。突然かけられたその問いかけに、戸惑いながらも。
 
 ――へぇー、強いなぁ。……君、大会には出るのかい?俺たちは、団体戦のチームメイトを探しているんだけど、君にも加わって貰えると、ありがたいんだけど、どうだい?
 
 ……ああ、いいよ。
 
 俺は気軽に、そう快諾した。
 
 降籏さんを除けば、それ以来だ。今のチームメイトと戦うのは。
 
「さて。どう戦おうかな?」

 あのダッシュ必殺は、怖くない。性質は理解している。致命的な弱点も知っている。
 
 まさか使って来るとは思えないが、一応注意しておきながら、距離を離しつつ戦うのがベストだろう。
 
『READY?』

 先程の戦いと違い、一生に関わる大問題を賭けている訳でも無し。
 
 内輪の戦いとあって、今までで最もリラックス出来ているかも知れない。
 
 全身を軽くほぐす。
 
 少し、疲れが残っているようだ。動きの激しい戦いは避けよう。
 
 まずは様子を見ながら、ゆっくりと試合を楽しむのもいいだろう。
 
『FIGHT!』

『ハッソウ跳び!』

 真っ直ぐに飛んでくるヨシツネ。
 
「……」

 俺は無言で飛び上がり、俺のいた場所へと跳んで来るヨシツネを待ち、つい先程、ジャンヌ・ダルクとの試合で見せたばかりの技の名を唱える。
 
「スペキュレイション」

 呆気なく捕まるヨシツネ。これで、ケントもダッシュ必殺は使いづらくなっただろう。
 
 間合いを離し、起き上がりにショットガンを重ねる。……だが、ガードされてしまった。
 
 曲がりなりにも、決勝まで勝ち上がって来たのだ。その位は、やって当然。
 
 コレをまともに喰らうようなアホウであれば、マグレでもここまで勝ち上がって来るのは無理だと言える。
 
 ヨシツネはガードしたまま、じりじり間合いを狭めて来る。
 
 対して俺は、牽制けんせいに拳銃を放ちながら、間合いを広めていった。
 
 ダッシュ必殺を封じられた以上、ヨシツネが一気に間合いを狭めるのは不可能だと言える。
 
 だからと言ってまともに突っ込んで来れば、ただショットガンの餌食になってしまうことも目に見えている。
 
 とどのつまり、ヨシツネには今のところ、全くなすすべが無いと言えよう。
 
 そう俺が思っていたところへ――
 
『村雨ぇ!』

 ヨシツネが、再び飛び込んできた。
 
 俺も再び飛び上がり、そして――
 
「スペキュ――」

 先程と同じタイミングで口を開いた。
 
 ……が。
 
 今度は、ヨシツネの方から、俺に向かって飛び上がって来た。それも、刀を斬り上げながら。
 
 相手は飛び上がっているものの、スペキュレイションのヒットゾーンには入っている。
 
 一瞬、躊躇したが、そのまま技の名を唱えきることにした。
 
「――レイション!」

 急降下するジャックと、飛び上がって来るヨシツネ。二つの影が交錯し、地面に落ちて倒れていたのは――
 
 ……ジャックの方だった。
 
「クソッ!負けるのかよ、アレで!」

 俺はガード姿勢を取りながら、ジャックが起き上がるのを待った。
 
 平伏すジャックのすぐ傍らには、ヨシツネが控え、ジャックが立ち上がるのを待っていた。
 
 ジャックの起き上がりに、刀による一撃がかぶせられる。だが当然、ガード姿勢を取っていたジャックに、まともなダメージは与えられなかった。
 
 しかし、今は完全にヨシツネの間合いに入ってしまっている。この距離での戦いは、俺が不利だ。
 
 俺はショットガンを構えてフェイントを入れ、ヨシツネがガードしている間にバックステップで遠退いた。
 
 ショットガンは構えたまま。ヨシツネが一瞬、ガードを解いた。
 
 俺は反射的に撃っていたが、ヨシツネがガードを解いたのもフェイントだったらしく、撃ったのとほぼ同時に、ヨシツネはガード姿勢を取っていた。
 
 勝負はまた、振り出しに戻った訳だ。
 
 あの『村雨』という技は、恐らく空中まで追尾する突撃系の技だろう。
 
 だとすれば、無敵時間は無い筈。
 
 突撃時にショットガンを喰らわせてやれば良いだろう。
 
 出来る事なら、早い段階でもう一度、『村雨』を繰り出して、確認させて欲しいものだ。
 
 万一、ダッシュ必殺からの連携だった場合、ガードする以外の対策を、早い段階で考えておきたい。
 
 チラリと、お互いのライフゲージを確認してみた。……大丈夫。スペキュレイションでのダメージのお陰で、体力はまだ俺の方が上だ。
 
 亀のように丸まって、身を守り続けているヨシツネに向けて、左手に持つ拳銃で攻撃を仕掛けてみた。
 
 二発。
 
 三発……。
 
 だがそれでも、ヨシツネは動かない。
 
 先手を打たなければならないのはどちらであるのかを、ケントは理解していないのだろうか?
 
 このまま200秒が過ぎても俺は勝てる。だが、KO勝ちでなければ、何となくスッキリしない。
 
 仕方なしに、俺は先手を打つことにした。
 
 ダッシュして、ヨシツネを跳び越す形で跳び上がる。そして、ヨシツネの頭上に来たところで、唱える。
 
「スペキュレイション」

 タイミングがシビアだが、それさえ合ってしまえば、ガードも関係無しにダメージを与える事が出来る。
 
 今にして思えば、結構、凶悪な技だな、コレ。
 
 流石に、動かなければならない状況だということを、ようやく理解したのか、ガードもかなぐり捨てて、ヨシツネは走って来た。
 
 彼のライフゲージは、既にレッドゾーンにまで達している。ショットガンがまともに入れば、勝負が決しかねない。
 
 俺はショットガンを構えて――
 
『ヤサカニノ連珠!』

 嫌な予感がして、咄嗟に体勢をガード姿勢へと変えた。
 
 三度跳んで来るヨシツネ。間合いが近く、それを確認してからでは、普通に跳び上がるのは手遅れであっただろう。
 
 一撃目を受け止め、二撃目を叩き込む前を後ろへ回り込もうとしたところで――
 
「ジョーカー!」

 俺は無敵時間付きのジャンプ必殺で空へと逃げた。
 
 ヨシツネは二撃・三撃と空振りし、最後にあの『村雨』の如く跳び上がって来た。
 
 今度は迎撃をしくじる事は無い。
 
 ちらりと自分のゲージを確認してから、俺はその為の技を唱えた。
 
「正ジャック!」

 『村雨』に無敵時間がある筈も無く、俺の最高の技・正ジャックは、飛び上がって来たヨシツネをしっかりと迎撃し、そして――
 
 勝敗を、決めた。