第40話 ケントの想い
――ケントサイド――
考えてみれば、危うい事をしたものだ。
何が、って?そりゃあ秘密さ。
……まぁ、ここだけの秘密ということで、特別に教えてあげよう。
あの突然のハングアップは、実は俺の持ちキャラ、ヨシツネのせいだったりするんだな、これが。
何?ハングアップの意味が分からない?
俺より英語が出来ないなんて、もう一度英語の勉強をやり直した方が良いんじゃないか?
コンピューターが動かなくなって、もうお手上げってことさ。ちなみにハンズアップの間違いじゃない筈だぜ?
元々は『hang up』、乗り物なんかが溝なんかにはまり込んで、もうどうにも動かなくなるって言葉から来ている筈だ。
……いや、実は自信ねぇけど。
あのジャックJr.の強さには驚いたね。なにせ、三人まとめて、一発で迎撃されちまったんだから。
ショットガンは卑怯だよ。特に団体戦で。
圭なんか、ジャンプ中だったのに喰らったんだからな。
……おっと、ハングアップの原因の話を、していたんだったな。
で、俺は堪らずに特殊な必殺技を使おうとしたんだ。
そしたら、止まっちまった。
1対1の勝負なら、そんなことは起きない筈だったんだが、団体戦の上に相手はCPUキャラだったからな。
同時に実行できる処理の限界を超えちまったから、堪らずコンピューターが音を上げたってわけだ。
そもそも処理が重い事が原因で、俺の好きだったそのシステムが禁じられちまったんだからな。
考えてみれば、止まって当然だったんだよ。
で、そのシステムってぇのが……ちょっと待てよ。試合が始まっちまったから、実践して見せてやる。
……さて、そうは言うものの、ここであの三人に見せるのは、得策じゃねぇな。
あ、いや、見せねえって事じゃねえぞ。
ただ、ちょっと考えて使わねえと、肝心のアイツらが相手になった時に、使えなくなっちまう。
……けど、正直言って、今の相手・クリムゾンJr.って奴は、技の出し惜しみをして勝てる相手じゃなさそうだ。
……よし。やはり使おう。俺の持つ、真の必殺技の一つを!
「ハッソウ跳び!」
ダッシュ必殺で、一気に間合いをゼロにする。直後にコレだ!
「クサナギの連剣!」
敵の脇を通り抜け、擦れ違い様に斬り付ける!
ガード?関係ねぇよ!この後が本番なんだからな!
間髪入れずに振り返り、一歩踏み出しての斬り下ろし。返す刀で切り上げる!
くぅ~っ、たまらんねぇ!
やっぱり刀だよ、刀!芸術品と呼べる武器なんざ、刀の他にねぇよ!
……おっと、ヨシツネがもう、次の突きに移行してる。
こっからが綺麗なんだよ。見逃してたまるか!
目にも止まらぬ刀捌き。それが次々と血飛沫を散らせる。
それが終わった時に宙に浮かぶのは、赤く染め抜かれた『菊』一文字!この技のグラフィック効果の設定に、どれだけ苦労した事か!
……で、何が起こったのか、分からなかっただろ?
ただの連打技を使ったワケじゃねぇ。
まずは『小夜の左文字』。ガードしている相手にも、2撃目からはヒットさせる為に、後ろに回り込む技だ。
俺がこのゲームを始めた頃は、極稀に今の俺と同じような使い方をしている奴を見かけた。
但し、2つか3つしか繋いでなかったけどな。
次に『正宗』。斬り下ろしの攻撃だ。これから返す刀でその次の斬り上げる攻撃・『村正』に連携する技を、俺は燕返しと呼んでいる。
実際に、それも一つの技として獲得済みだ。
続いて『虎徹』。単なる突き。
最後に『菊一文字』。見た目は派手で気に入っているが、威力は低い。
……もう分かっただろう?以前はこのゲーム、必殺技の連携登録なんて真似が出来たんだ。
単に必殺技を続け様に使っても大きな差は無いが、どこかで一撃でも入れば、その先は最後まで確実にヒットするという利点があるので、俺は使っていた。
ただ、登録するにはかなり割に合わない経験値を消費してしまうシステムだった。
ちなみに、俺のスキルゲージは現在ゼロと言って良い。そしてその威力は……。
敵が、もう立ち上がって来ない事を見て貰えれば、納得できるだろう?
これさえあれば。
「優勝は、俺様のものだぁ!」