第32話 予選最終試合
相手はまた、タンクタイプであった。
予選の最終試合だ。それは仕方ないとしよう。
問題は、それがどのタンクタイプであるかだ。
ライトタンクである可能性は低い。
新たにキャラクターを作ってから、10万点の経験点を稼ぐには、時間が残されていなかった筈だからだ。
また、それは同時に、ヘヴィータンクに関しても似たような事が言える。
但し、元が攻撃力重視のタンクタイプであって、新しいガード必殺を会得していた可能性を考えると、ヘヴィータンクと呼べるだけの実力を有している可能性は高い。
第三に、ただのタンクタイプに新しいガード必殺を覚えさせた可能性がある。これも中々の強敵となる可能性は十分にある。
そして最後に、ガード必殺を会得していないただのタンクタイプである可能性。
これが最も有力な可能性であると共に、予想される4つの可能性の内、最も相手をし易いタイプだ。
だがいずれにしろ、予選の最終戦にまで勝ち上がってきたキャラクターだ。
強力な敵となる可能性は十二分にあると言える。
最初に相手が取って来る行動は、恐らく二択。ガード必殺か、それともいきなり銃弾を浴びせて来るか。
その両方に対処する術は、俺には一つだけある。
その術――ショットガンのホログラフィーが握られた右手を見下ろす。
同時の攻撃は、威力の勝る方が、相手の攻撃を打ち消してその相手にヒットする。
左手に握っている拳銃ではダメだ。ショットガンの威力を高める為に、その威力を下げられた拳銃では。
『READY?』
右手を、正面に立つ敵に向けて構える。だがしかし、ホログラフィーは試合が開始されるまでは動かない。
『FIGHT!』
ホログラフィーが俺の右腕と同化した瞬間に、俺は引き金を引き絞っていた。
ダァンッ!
凄まじい音と共に、広い範囲に銃弾が散らばった。
敵は――
反時計回りに回り込もうと動き、ショットガンの餌食となっていた。
相手にしてみれば、ショットガンの存在を知らず、何故、自分が倒されたのか、分からなかったであろう。
立ち上がった直後にも、刹那の時を呆然と立ちすくんでいた。
勿論、それを見逃す俺では無い。瞬時に相手の心理状態を読み取って、再びショットガンの引き金を引いた。
パニックに陥っているその僅かの間に、俺のショットガンは再びヒットした。
ちらりと横目で相手の体力ゲージの減り具合を確かめた。
……この相手、ただのタンクタイプではない。
体力ゲージの減り具合から導き出される防御力の値といい、試合開始時の移動の速さといい、タンクタイプなどではなく、バランス良く能力値を振り分けた、ただの銃を武器とするキャラクターだ。
3度目のショットガン。これは流石に防御されて、ほとんどダメージを与えるには至らなかった。
高い攻撃力の代償として、ショットガンは連射する事が出来ない。
俺は左手に持つ拳銃で威嚇しながら、相手の出方を見た。
ショットガンを恐れてか、相手は攻撃もして来ない。
代わりに、徐々に徐々に間合いを詰めて来ていた。そしてある程度まで間合いを詰めてから――
突然、斜めにダッシュし、そこから一気に間合いを詰めて走った。
俺は背後を取られまいと、彼を追って走った。
走ったかと思えば、今度は止まって銃撃を撃って来るのを俺はガードし、ガードする為に止まってみれば、また走り出した。
それが繰り返される。
……キツい。
日頃の運動不足と今日これまでの試合によって、俺のスタミナはかなり低下していた。予想はしていたが、まさかここまでとは……
ちらり。
俺は再び相手の体力ゲージを確認した。
……大丈夫だ。十分に削り切れる範囲内にまで減っている。
俺は足がもつれたフリをして立ち止まった。予想通りに、すぐに相手は背後に回り込んだ。
ついでに言えば、十分に至近距離に。そこへ――
「裏ジャック!」
背後にも当たり判定を持つ連打系の技を繰り出した。
敵は遂に3度、地面に平伏し、次に起き上がった時には、防御していても正ジャックの前には耐え切れず、ようやく俺は勝利を収めた。
……だが、今の攻防で、俺は自身の弱点に気付いた。
それはスタミナだ。
今の状態では、逃げるタイプのライトタンクに勝てはしない。
次の日から、俺は『エデン』にも通わず、体力アップのトレーニングを始めた。