CPUキャラ

第28話 CPUキャラ

 苦しい戦いを終え、俺はようやく休息に足る時間を得る事が出来た。
 
 美菜姉ちゃんを三人に紹介してから試合を観戦し、第二試合を待つ。
 
 それぞれ無事に勝ち上がって行く中、圭一人だけが。
 
「負けちゃったよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 一回戦で姿を消し、嘆いていた。
 
 試合の様子は見ていたが、相手が弱くなかったのだから、仕方あるまい。
 
 他も大体の身内の試合は見れたのだが、主任――同一人物である以上、そう呼ぶしかあるまい――の試合だけは、やけにスクリーン前が混雑していて、見られなかった。
 
 続く、二回戦。今度も俺の出番は早かったが、休憩する時間は1時間もあった為、疲労は残っていないと言って良い。
 
 ウム、若いって素晴らしい事だな。
 
 相手も一回戦よりも弱く、楽に勝ち上がれた。
 
 そしてその試合を終えて筐体を出た時。
 
「蒼木蒼木蒼木蒼木ぃー!」

 圭のけたたましい呼び声が、俺の耳に飛び込んできた。
 
「何だよ、やかましい」

「いいから、ちょっと来い!」

 腕を強引に引っ張られ、俺は一つの筐体、そのスクリーンの前まで連れて行かれた。
 
 そこではケントと主任、それに美菜姉ちゃんの三人が試合の様子を見ていた。
 
「丁度良かったわね、羅閃。面白いものが見れるわよ」

 試合を行っている一方のキャラクターは、巨大な薙刀を持った巨身の僧兵。
 
 恐らくは、真次の持ちキャラ・ベンケイ。そしてもう一方は……。
 
「……何だ、アイツ?」

 その姿を見て驚いたのは、姿が異様だったせいではない。
 
 ある意味、異様であったかも知れなかったが、驚いた理由は、その姿があまりにも、あるキャラクターに似ていたせいだ。
 
「名前までそっくりで、ジャックJr.って名前だったぞ!」

 そう。眼鏡を掛けた鋭い容貌。闇色のロングコート。両手に持った形の違う銃。
 
 全て、ジャックと同じだ。試合開始の仕草まで一緒だった。
 
「ちなみに、昨日の団体戦の一次予選で俺が当たったキャラだ」

 ケントが画面から目も離さずに言う。
 
「メチャクチャ強かった」

 ケントが言うなら、その強さは本物だろう。
 
 そのケントの言葉を聞いて、主任と美菜姉ちゃんが顔を見合わせてクスリと笑う。
 
「……何か、知ってるのか?」

「何だと思う?」

 顔に浮かべられた、意地の悪い笑み。恐らく、真っ当に聞いても何も教えてはくれまい。
 
「大丈夫よ。あなたよりは弱い筈だから」

 何が大丈夫なんだか。
 
 ケントが負けた相手なら、少なくとも真次では勝てないだろう。
 
 これで仲間の内から二人目が消えてしまう訳だ。
 
「よく見てみれば、あなたなら分かるんじゃないかしら?」

 試合が始まった。
 
 間合いを詰めようとするベンケイに対して、ジャックJr.は左手に持った拳銃で牽制する。
 
 距離が大幅に縮んだところで、右の……ショットガン!
 
「反則クサイほど強いんだ、あのショットガンが」

 ケントがぼやく。俺と同じ設定なら、そりゃあ強いだろう。
 
 間違いなく近い内に獲得が禁止されるであろうというのが、俺が使ってみた感想だ。
 
「羅閃、あんたならこの先、どう動く?」

 俺なら……相手の武器とその持ち手を考えて、時計回りに旋回。相手の動きが鈍いようなら、背後を取って……。
 
 その通りの事が起こった。違ったのは、そこで俺なら正ジャックを使うところを、そいつはショットガンで攻撃したことぐらいのものだ。
 
「必殺技を持っていないのが、唯一と言ってもいい欠点と言えば欠点ね」

 その後、ベンケイは為す術も無く倒されてしまった。俺がジャックで戦っていたのならば、そうしていたであろう動きに近い形で。
 
 ……疑問は幾つか残っているが、恐らく俺の考えに間違いは無いだろう。
 
「……どうして大会に、あんな奴が出ているんだ?」

 確信に至らない原因となっている、最大の疑問はそれだ。
 
「私たちは反対したのよ。

 けど、そうでもしなければ性能が確認出来ない、って」
 
「出来れば予選で食い止めたかったんですけどね」

 つまり、こういう事か。
 
「この大会に、CPUキャラクターが混じっているんだな。少なくとも5体は」

 二人が頷く。
 
「羅閃みたいなインチキな弾除けは出来ないから、私ならアイツに負けないけど、強さは御覧の通り。

 私たちの予想では、5体とも予選を突破するわね」
 
 インチキな弾除けとは、酷い言い様だ。
 
「団体戦の方は、もう本戦進出が決まっています」

 それはそうだろう。第一次予選の最終試合で、俺たちのチームに勝っているのだから。
 
「アンタが必殺技を使いこなす前のパターンだったのが、唯一の救いね」

 美菜姉ちゃんの言葉は、嫌な事に、裏を返せばこういうことでもある。
 
「他のキャラは、必殺技を使えるってことだな?」

「今現在、獲得が可能な技ならね」

「……それぞれのスタイルは?」

「タイプより、名前を言った方が早いわ。

 ジャックJr.に、スーパーライト――」
 
 二つ目は、恐らく俺が当たった奴だろう。そこまでは分かっている。
 
「――スーパーヘヴィー、クリムゾンJr.――」

 その二つも、予想がついていた。問題は、最後の一つだ。
 
 集められていたテストプレイヤーの中には、それほど強い奴は見掛けなかったが……。
 
「――それに、ジャンヌJr.」

「……」

 最悪だ。
 
「あ、でも、重要な技が二つも使えませんから、簡単に勝てましたよ」

 主任の言葉が、どれだけ俺にとって救いになった事か。
 
「……なあ、蒼木」

 背後からケントが俺の肩を叩いた。美菜姉ちゃんの苗字は飯坂なので、二人同時にその呼びかけに反応するというような混乱は生じない。
 
「事情を説明してくれ」

 その後ろには、圭と真次も控えている。
 
 ……事情を説明しない訳にはいかないとは思うが、これはどうにも気が進まない事態となってしまった。
 
「要はだなぁ――」

 俺の説明に、二人は聞き入った。
 
「この大会には、プレイヤーを持たない、CPUキャラクターが5体、参加しているって事だ。

 ちなみに言えば、団体戦の第一次予選。最終試合で当たったチームの5体がそれらしい」
 
「……アイツら、メチャクチャ強かったような気がするが……」

 ケントの言葉に、俺は「大したことない」と言いたいところだが、俺自身も負けているので、何とも言えなかった。
 
「ま、予選落ちした俺たちには、関係の無い話だな」

 圭はそう言うが、団体戦でまた当たらないとも限らない。
 
「負けた~」

 筐体から出て来た真次がそう言う。そこへ、圭がサクッと説明した。
 
「ま、僕たちの分まで頑張ってくれたまえ」

 説明を聞き終えた真次がそう言ってから、俺たちは揃って昼食を買いに会場を出た。