第25話 予選突破!!
「キングス・ガード!」
試合開始直後に、ガード必殺を俺は展開する。
バイト中に何度も戦った相手だから、負ける気はしないが、念の為ということもある。
真っ直ぐにダッシュ。
彼女の攻撃のタイミングには癖がある。その癖が直っていないのなら、一撃も当てさせるつもりは無い。
何度か横へのステップを入れて、速攻で間合いを詰める。
何度か撃ってきたが、やはりタイミングが変わっていない。
何度か忠告しようとしたのに、俺のその親切心を尽く無視した報いだ。完封させてもらう。
まずは牽制の左。
ガードされたところで横に回り、ショットガン。
それもガードされるが、接近戦だとそれなりに削れる。
この武器は、彼女自身が提案したアイディアだった筈だが、それに苦しめられるとは、皮肉なものだ。
……もっとも、散弾銃が無くても、彼女には負ける気がしないのだが。
ガードは、今だ解かれていない。
コレも、彼女の悪い癖の一つだ。
それなりに小回りの利くプレイヤーなら、簡単に背後を取れる。
勿論、俺も例外ではない。
彼女に言わせれば、スピードを最低に設定されて小回りを利かせた動きをされると、隙を見つけられないのだそうだが。
悪いが、その弱点を突かない手は無い。
俺は背後に回り、叫ぶ。
「正ジャック!」
彼女のキャラクターがライトタンクの原型となっただけに、防御力は希薄だ。
あっさりと瀕死の状態にまで追い込んだ。
だから、スタイルが噛み合っていないと言ったのに。
俺は彼女の周囲を旋回しながら、立ち上がって来るのを待つ。
どうせ起き上がりに撃って来るのだろうが、タイミングが分かっているのだから、まるで怖さが感じられない。
予想通りの行動。
それが必殺技だったのは意外だったが、当たり判定が通常攻撃と変わらないのでは、何の効果も無い。
確か、全国大会で優勝したとほざいていたが、眉唾な話だ。
カウンターでのショットガンが命中した。
距離を離さなかったのは、コレを当てる為だ。
それにしても、全く成長していないのだから驚きだ。
この様子だと恐らく……。
俺は足を止め、以前と同じタイミングで横にステップした。
すぐ脇を巨大な弾丸が飛んで行く。
起死回生の一発を当てようとしたのだろうが、俺にとってはカウンターの絶好のタイミングにしか見えない。
「練習しなよ、美菜姉ちゃん」
俺は、どこかの筐体の中にいるであろう従姉に向かって言いながら、止めの一撃を放った。
……まったく。こんな時に当たるとは、気の毒な奴。
心の中で同情の言葉を述べながら、俺は筐体を出た。
試合前の屈辱的な一言は忘れていない。
俺はムスッとした表情で観衆を一瞥し、力強く握り込んだ拳を高々と突き上げた。
聞こえてくるのは、周囲の筐体が上げる電子音。
人の声は、一つとして聞こえない。
もう、俺たちをとやかく言う奴など、いない。
その日。
俺たちはそれ以後、降籏さんの出番を必要とすることなく、無事に予選を突破する事に成功した。