第20話 無様な試合
第一次予選の最終試合とあって、俺は緒戦の時に匹敵するほどの緊張と戦っていた。
……いや、緊張だけではない。今まで戦ってきた疲労も、今の俺にとっての敵だった。
だが、それは敵にとっても――スーパーライトのプレイヤーにとっても、同じことが言える筈だ。
いや、むしろ、動き続ける事を前提とした戦い方をする、ライトタンクタイプにとっての方が、疲労は大きい筈だ。
勝機は俺の方にある筈!
俺は眼鏡を押し上げる。ホログラフィーとは、ズレてしまった。これも、緊張と疲労によるものだろう。
俺が本調子で無いことは明らかだ。
『READY?』
口から飛び出す言葉は、何もない。ただ、試合の開始を待つだけだ。
『FIGHT!』
開始と同時に、俺はショットガンの弾丸を叩き込む。だがそれとほぼ同時に――
『プロテクター!』
ガード姿勢を取りながら、ガード必殺を展開するスーパーライト。
ダメージは一応入ったが、それもほんの僅かなもので、無い物と考えた方が良いだろう。
ガードを固めて反時計回りに旋回する。初めてのスーパーライトのヒット音。
相手も反時計回りに旋回しながら逃げている。
動きは速い。ライトタンクだ。
互いに移動している時に銃器で的確にヒットさせてくる相手は少ない。
恐らく熟練者と考えて良いだろう。
恐れていた展開に、俺の焦りが募る。
俺は旋回しながらも左手の拳銃を三連射。続けて放つ、ショットガン。
弾丸がヒットする瞬間に、敵は立ち止まって腕をクロスさせた。
そしてヒット音が鳴り響いた次の瞬間には走り始めている。
……上手い。避けたところをどれかの弾丸がヒットすれば、十分に間合いを縮める時間を稼げる筈が、予定の半分しか間合いを詰められなかった。
仕方なしに、直進から再び旋回へと動きを切り替える。
「……スピードをこんなに有効に生かしている奴は、初めて見た」
数値から言えば、スピードに2倍の差が開くことすらほとんどあり得ない。実用性を考えれば、せいぜい5割増しがいいところだ。
ところが、ようやく縮めた距離があっという間に開かれる様からは、4倍・5倍もの開きがあるように感じられる。
キャラ性能の差だけでは無い。プレイヤー自身の差もある。
劣勢なだけに、余計にその開きが大きく感じられる。
「……この距離じゃ、不利か」
着実に削られるライフゲージを見て、俺は再び相手に向かって行くことにした。
直進では直撃される。ランダムなジグザグを刻んで、的を絞らせない!
敵は、バックステップで遠ざかりながら、銃弾を放ってくる。だがそんな中途半端なやり方で対処できる筈が無い。
距離が徐々に縮み、しかもジャックの体力は序盤に削られて以降、減っていない!
「喰らえ!」
ショットガン!
ガードされれば威力は期待出来ないが、この間合いで躱せる筈が無い。
予想通りの相手のガード。俺はそのガードが途切れる瞬間を待って叫ぶ。
「正ジャック!」
逆転を狙っての必殺技は、しかし俺の期待を裏切ってガードされてしまった。
ガードの上から削ってそれなりのダメージは与えられたが、逆転には至らない。
そして……。
その後は逃げに専念されてしまい、スピードで劣るジャックでは為す術も無く最初のリードを守り切られたまま、200秒が過ぎた。
「くっそおおおおおおおお!」
圭の言っていた究極の戦い方を実践された形になって、俺は負けた。
悔しさの余りに拳を握り締めるが、ぶつける場所が見つからずに、俺は俺の頭を挟み込むようにして殴った。
性能や技術の差で負けた訳では無い。
ましてや運が悪かったせいでも無い。
単に俺の油断と緊張のせいだ。初手でガード必殺を展開していれば、勝っていた。
それだけに……。
「……もう、二度とこんな無様な試合はしたくねぇ!」
正直な気持ちであるのと共に、それは俺の誓いでもあった。