第17話 タンクタイプ戦
『新撰組チームの方、出番です。筐体の方までいらして下さい』
この会場に設置された筐体は7つ。
団体戦に使う5つと、ライトタンク・ヘヴィータンクのお披露目にと、臨時に増設された2つだ。
「お、出番だ」
ケントが言う。チーム名のネーミングに関しては、まあ、ケントに任せてしまったのだからこうなったのは仕方ないとするが……。
「おおおおぉぉぉ……ひと試合しか見れんかった……」
話によると、開始直後はライトタンクとヘヴィータンクを含むタンクタイプ以外のスタイルが見当たらないという位だったらしいのだが。
俺の見た3試合(×5)の中には、タンクタイプに新しい必殺ガードを付けた、ヘヴィータンク擬きと言うべきか、ニュータンクと呼ぶべきなのかというキャラを1体だけ見掛けただけで出番が回ってきてしまった。
これはちょっと……本格的なライトタンクやヘヴィータンクに当たったら、危バイ……。
「では、左端から順に、先鋒、次鋒、中堅、副将……、右端に大将という配置で用意して下さい」
「順に、俺、圭、真次、蒼木と続いて、大将に百合音ちゃん。
ああ、ついでに言っとくと、第二次予選もこの順だから」
「私が大将ですか?」
一人、この並びを知らされていなかった降籏さんが、そう訊ねる。
「出番が少ないかも知れないけど、まあ、頑張ってね」
第二次予選で勝ち上がれば、先に出た方が試合数が多くなることのみ考えて、この順番は考えられた。
団体戦は経験値が入らないから、俺も別に文句は無い。
「では、筐体にお入り下さい」
係員の案内で、俺は筐体に向かう。
……どうか、タンク系のスタイルのキャラとは当たりませんように。
心の中で祈ってから、俺は筐体の中へ入った。
大会とはいえ、設定はいつもと変わらないようだ。いつも通りにシンクロフレームに腰掛け、装着して立ち上がり、試合の開始を待つ。
緊張と集中力が高まって行く。
ここまで来たら、もう迷いを断ち切って全力を尽くすしかない。
……けど、本番に弱いんだよなぁ、俺。
やがて現れた相手の迷彩服を見て、俺は祈りが通じなかった事を知る。
……まぁ、いい。
俺は眼鏡を左の親指で器用に押し上げた。僅かに、ホログラフィーとズレを感じたような気がした。
『READY?』
始まるまでの時間は、あと僅か。早まる鼓動が、開始の合図への読みを僅かに狂わせた。
『Fight!』
俺はその合図の直前には動いてしまっていた。合図が予想よりも一瞬遅く、慌てて俺は二度・三度と引き金を引き絞った。
直後に、ジャックへのヒット音が聞こえる。
「クソッ!喰らった!」
ガードを固めて反時計回りに旋回する。
二度目のヒット音。
相手も反時計回りに旋回しながら逃げている。
動きは遅い。ヘヴィータンクか、ただのタンクタイプだ。
お互いに移動している時に銃器で的確にヒットさせて来る相手は少ない。恐らく熟練者だと考えて良いだろう。
恐れていた展開に、俺の焦りが募る。
俺は旋回しながらも、右手のショットガンを放つ。相手の足が一瞬止まり、ガードをされてしまい、有効な打撃とはならなかった。
そもそもショットガンは、遠距離用の武器では無いのだ。
遠距離では、その有効性が半減してしまう。
その代わりに、接近戦での破壊力と中距離での有効範囲は絶大だ。
遠距離戦を好む者が少ないことを考慮しての設定が、今は裏目に出ている。
だが俺は、相手がガードした隙に走り、間合いを縮めて、再びショットガンを放った。
今度のショットガンは……ヒットした!
相手がガードを解いた、一瞬の隙だった。
ダメージもそこそこ大きい。
今はもう、完全にジャックの間合いだ。
未だ尚、敵はガード必殺を発動させない。恐らくはただのタンクタイプだろうと、俺は判断した。
俺は敵に近付きながら、尚も立ち上がりに合わせてショットガンを放つが、残念ながらそれはガードされてしまった。
だがそれは、俺が更に間合いを縮めるチャンスにもなった。
接近戦は、俺がタンクタイプを倒す時に良く使う。
俺が思うに、タンクタイプに対しては最も有効な戦術だった。
左手の拳銃を連射しながら、俺は小回りを利かせて敵の背後に回る。
そこで使うのは必殺技――
「裏ジャック!」
ジャックが、蹴りによる連打を見せる。
その乱舞が終わった時、敵のライフは、そのほぼ半分が失われていた。
俺は、再び立ち上がりにショットガンを重ねて放つが、それも再びガードされ、背後へと回り込む前に、敵は空へと跳んで逃げていた。
そして敵がほぼ真下にいる俺に向かって弾丸を放つのと――
「正ジャック!」
俺がそう叫んだのはほぼ同時だった。
結果、敵の弾丸は打ち消され、ジャックの必殺技のみが、カウンターの形で敵にヒットしていた。
敵はその技によって空中に何度も押し上げられ、それが終わった時。
敵は地面に降り立ち……いや、地面に落ちて、そのまま動かぬ骸となった。
そしてようやく。
フゥーッ。
俺も一息つくことが出来た。