第8話 ある日の日曜日
試合の合間に、俺はオプションルームへと向かった。
目的は、ジャンヌへの対応策を練り上げる為、あの試合の映像記録をチェックする事だ。
IDカードに記録しておける、試合の映像記録の数は5つ。その内1つは常に直前の試合の映像が記録されて行くので、実質的には4つ。
その内の1つに、俺はあの時、初めて試合の映像を記録した。
あれ以来の数日間、暇さえあれば、その映像を眺めていた。
スタート直後の、必殺ガード。そこに付け入る隙があろう筈が無い。そこから先は、スローで流す。
最初のミスは、接近してからのショットガン。
まぁ、相手の能力を知らなかったのだから、その時は仕方の無いミスだ。
ココで斜め前方に飛び上がり、空中で方向転換をしてから、背後からの射撃というのが理想だろう。
少々難しいが、既に練習は始めている。
やってみたところ、このままのペースで練習していれば、大会には余裕を持って間に合う程度には仕上がりそうだ。
あの場面から他の手を打つならば、やはり『正ジャック』だろう。
何しろ、獲得に10万点も費やして会得させた必殺技だ。
一般的な必殺技の2倍の経験値を必要とした分、性能も2倍近い。そんな技が効かない訳が無い。
問題は、あの十字架でどれだけ威力が削がれるかということだろう。
防御性能の高い相手にわざわざ狙ってガードさせた時には、およそ10%程度しかその体力を削れなかった。
そしてこの技の消費を考えると……駄目だ。正面から立ち向かうのは不可能だ。
投げ技という手もあるが、投げ技への機動性の影響は大き過ぎる。
まともに考えれば、逆に投げ返されるのがオチだろう。
――全く手の打ちようが無い訳ではないのだが……。
「こんな所に居たのかよ、蒼木ぃー」
「……何だ、居たのか、真次」
覚えのある声に振り向けば、今日は店内では見掛けなかった筈の真次が、強化ガラスの扉を半分ほど開いて、腕を支えに上半身だけコチラに突き出していた。
その額には汗を浮かべ、息も切らしている。
「居たんじゃなくて、来たんだよ!
今日が何の日だか覚えてないのか?」
「……土曜日だろ?他に何かあったか?」
その返事を聞いた真次が、ズルズルと扉に寄り掛かるようにしてその場に倒れ込んだ。
……コイツもかなり、オーバーリアクションする『圭化』が進んでいるようだな。
「忘れているんじゃないかとは思ったけど、曜日感覚までズレてるとは思わなかった……。
やるな、蒼木。流石だ」
「……皮肉か?」
聞くまでも無い事だが、こう言ってやるのが『お約束』というものだろう。
「今日は日曜だろ!?そのカビ生えた脳ミソ使って、今朝の新聞を思い出しやがれ!」
「新聞?取ってねぇよ」
「ああああ!コイツはぁああああ!」
頭を抱えて叫ばれても、取ってないものは仕方ないじゃないか。
そもそも今日日の一人暮らしの大学生に、何を期待していると言うのだ?
新聞を取る余裕があるなら、少しは食生活を改善するか、遊ぶための資金に回すというものだ。
三人も当然、新聞は取っていないものだと思っていたが。
「真次、おまえは新聞取っているのか?」
「取ってる俺が悪いみたいな言い方、するんじゃねぇ!」
……そんなものなのだろうか。
「で、何か用か?」
「『何か用か』じゃねぇよおおおお!
聞いた事のある名前のキャラが出て来たと思ったら、せっかくのチームメイトをギッタンギッタンに叩きのめしやがってええええ!」
「……?
ああ!思い出したぞ!次の日曜は『ヴァルハラ』に行くって言ってたな!」
「おおっ!ようやく猿並みの知恵を取り戻したか!」
……いや。知恵とは違う気がするが。
いやいや、そんな事よりも。
「……で、何でだっけ?」
「……!!」
真次の目が、ゆっくりと大きくなって行く。
「この、鳥頭ああああああああああああ!!」
……。
いい加減、普通に話そうぜ。