第4話 惨敗
『READY?』
「オーケイ……」
自然体に構えたまま、俺はコンピューターの声に応えた。
開始の合図と共にクイックドロウで撃てるよう、神経を研ぎ澄ます。
『FIGHT!』
『ホーリークロス!』
開始と同時に、相手は必殺技を使った。
同時に俺は左手に持つ拳銃を撃っていたが、彼女の前に現れた巨大な白い十字架によって、それはあっさりと弾かれていた。
「まさか……ガード必殺!?」
真っ直ぐにジャックに向かって突っ込んで来るジャンヌを隠すようにして、その十字架は動いていた。
彼女の動きは今までに見た中でトップクラスの速さだが、その前にある十字架が飛び道具であれば、それがそんなに遅い筈が無い。
防御専用の必殺技だ!
存在は知っていたが、使われたのは初めてだ!
「止まれぇ!」
接近した彼女に向かって、右手のショットガンを放つ!ダッシュしているのだから、いくら防御必殺と言えども防ぎ切れない筈!
動きが一瞬でも止まれば……。
そう思った俺の思惑は、見事に外れてしまった。
一瞬としてその動きを止める事は出来ず、僅かなダメージさえも与える事は出来なかった。
『フェアリー・ステップ!』
二つ目の必殺技。
彼女は5つの残像を後に引き連れながら、ジャックの周りを回り始めた。
遅れたかと思いながらも、俺は腕を交差させて、防御姿勢で待つ。
だが、突き出された6つの剣の内、後ろ側から斬り付けられる3つまでもが、防御している筈のジャックの体力を削る。
「何だ、この技は!こんなの知らねぇよ!」
背後からの攻撃がヒットしただけならまだ分かる。
だが、単なる技のグラフィックとしての効果では無く、まるで何体ものキャラクターが実在して攻撃しているようなその効果は納得がいかない!
そんな技があるなんて、聞いた事が無いぞ!
「裏ジャック!」
俺は近接戦用に用意してあった必殺技を、その名を叫んで発動させた。
足技による連打を繰り返して、最後には相手を大きく弾き飛ばす技だ。
だがその最初の蹴りが、残像の一つをすり抜けた。
相手にとっては、これ以上無いカウンターのチャンスだ。
『シルフィード・ラッシュ!』
袈裟懸けに振り下ろされた6つの剣が、ジャックの体力を大きく削った。
俺は腕を交差させた防御姿勢を取っているものの、必殺技発動中のジャックは、それに反応していない。
瞬く間に何度も斬り付けて来る鋭い刃。仰け反る事すら許してはくれない。
これまでに無い苦戦の中、俺は冷静さを取り戻そうと必死になりながら、残された体力を確かめようと目だけを動かし――
「いっ――」
思わず息を飲み。
「インチキだああああああああああああ!」
心の底からの叫びを、力尽きるまで絞り出した。
程無く聞こえる高笑い。だがその声も、俺の耳を筒抜けていた。
ライフゲージを失い、ひれ伏すジャック。
彼が立ち上がる事は無く、ただ静かに、そこから姿を消し去った。