第38話 免許制の難点
レジスレーション家のアポイントは、あっさりと取れた。
それでも、三日は待った。
招かれて、ムーン=ノトス=ロイヤルはレジスレーション家を訪れた。――一人で。
「お招き頂き、感謝致す」
「いえいえ、王太子殿下からのご用事とあらば、喜びまして」
「――で、早速用件に移りたいのだが、構わぬだろうか?」
「ええ。如何致しましたか?」
「『αシステム』コアの売買に免許制を取り入れて頂きたい」
「――唐突に、随分な用件ですな」
レジストレーション家の当主・ウッディ=レジストレーションは、その用件の重要性に対して、ある程度正しく認識した。
つまり、世界のルールを書き換えるに等しい用件だと。
「なに、コアの売買に関して、過剰な利益を得ようとする輩が出ないようにするだけで良いだけの話だ」
「免許、と云う事は、試験を?」
「ああ。試験の問題はコチラで考えよう」
「罰則付き、と云う事になるのでしょうかな?」
「当然だな」
「それは、どの程度の範囲内で有効なのでしょうかな?」
「とりあえず、ソチラの領地内だけでも構わない」
「――他の土地では?」
「適用外とするしかあるまいな。当面の間は」
「そうなると――ウーム、難しいですな」
「――何か、問題があったか?」
「当家の領地内では免許が無ければ売買が出来ない。つまり、過剰な値段では売買出来ない。
そうなると、当家の権利で税を求める事は出来ない、と云う事になりますな。
もしも、当家の領土外で売買された場合によるケースではありますが」
「――そうか。難しいか。
難題だな。一度、持ち帰って練り直す必要があるか。
――確かに行商人に適用するには、難しいルールだな。
行商人で無くとも、大きな利益を得たければ他領に持ち込むのは自明の理、か。
――分かった。出直そう」
「因みに、コアの売買で多額の利益を得た者には、それ相応の税を掛けてもよろしいか?」
「構わない。宜しく頼む」
それだけのやり取りを終えると、ムーンは帰路に就いた。
無理難題。それは分かっていたが、全く効果が無いとなるならば、わざわざ免許制にする意味が無い。
むしろ、利益の独占が起こる可能性が高い。
ならば。
「――相場を調べるか。それに近い値段で売却すれば良い。ただそれだけの事だ」
だが、売値が上がれば相場も上がる。それでは、いたちごっこにしかならない。
それでも。
売れない程の値を付けた商品ならば、誰も買う者はいなくなるだろう。
この世には、欲しい物とあらば、金に糸目をつけない貴族が存在しているとしても。