第19話 滅入る事情
100%正確率の正八面体Xコアと記したのは、「但し書き」を付け加えよう。
『Alpherion結晶』で作成可能な上限限界の正確率を100%とした時の正確率であった、と。
となると、真球率にも同じ事が云えるのではないだろうか?
それが、ムーンの立てた仮説だった。
そして、真球コアも100%に到達したら、自我を持つのではなかろうか?
ならば、100%真球率は必要無い。
100%真球にならない限りの限界の真球率の『Alpherion結晶』を、”慣れ”を伴って作って行けば良い。
サイズは、慣れるに従って小さくして行けるだろう。
ならば、慣れるまで、ひたすらX真球コアを作って行けば良い。
だが、ムーンはそんなつまらないことをする為に、X機関及び『αシステム』の研究をしているわけではない。
ただひたすらに慣れるまで、X真球コアを作る。
その作業は、ノウハウを教えて人に対価を支払って依頼すれば良い。
手先の器用さで云えば、例えばリック。AZUKIは手先が器用な者が多い種族だ。
が、リックの性格では、慣れる前に飽きることだろう。
技術者と云う意味では、土鉄族の方が優秀だ。
だが、カメットの体格と性格を考えた場合、技術者を目指す事は無いだろう。
ならば、カメットの知人を。
そう思ったところで、ムーンは思考を一時止め、休憩を入れる事にした。
そう云えば、今日は未だ昼食を摂っていないいない。
ならばと思い、ムーンは学食に向かった。
今日はちょっと奮発して、海鮮丼を頼んだ。
別に何かを祝う訳では無い。
ただ、試作品のXコアを売り払って、ちょっと懐が温かい程度の理由だった。
そう云えば、研究室はどうしようか。
そんな勿体も無い事を考えていた。
取り敢えずは、学長に報告しなければならない。
……気が重い。滅入るような用件だった。
説明は、正確にした方が良かろう。
懐に忍ばせている、正八面体コア。一つ角が欠けている事を示せば、恐らくは納得してくれよう。
まさか、再度の爆発の危険を省みず、もう一度作れとは言われまい。
ムーンですら、オートイージスシステム無しには、無事でいられなかった。
むしろ、無事でいられた理由をこそ問われよう。
最早、隠し通す事は出来ない。――ココでいきなり失踪したりでもしない限り。
――いっそのこと、本当に失踪してしまおうか?
そんな思いがムーンの気持ちに魔が差す。
――否、それが出来ない理由が一つだけある。
アースへの支援。主に金銭面において。
ムーン自体は金銭的な余裕は十分にある。
だが、それも収入を得ていればという程度で、遊んで暮らせる程の余裕では無かった。
海鮮丼を食べ終えて、「ふぅ」と一息をつく。
気が滅入るが、学長に報告と説明と、ついでに相談をしなければなるまいと、ムーンは今の行動方針を決めた。