第7話 始末に負えない子
「いっそ、ヨーグを始末出来れば楽なのにね!」
相談の最中に、プリンは物騒なことを言い出した。
「でも、国民を無為に殺すことは、女王として失格なのよ」
そして、その手段を取れない理由も語った。
「僕が始末すれば……?」
「見殺した、と云う事で同じく女王失格よ」
「女王と云う地位を諦めれば……?」
「だからと云って、ヨーグみたいな奴に女王の座を受け渡すのも問題なのよ~!」
その辺は、中々に複雑な事情があるらしかった。
「プリンを暗殺したら、ヨーグが女王失格なんじゃ……」
「甘い!甘いわね!
あの子は他の女王候補を全て暗殺してでも女王の座を狙っているのよ!」
「そんなことしたら、フェアリーが全滅するんじゃ……」
「ヨーグを女王にと推す奴は生き残すのよ、あの子は」
「……そういう子らで他の国を興せばいいのに……」
全く以て、ジェリーは面倒ごとに巻き込まれた。しかも、今回の件でプリンの『死に戻り』で救われたから、今更見捨てるのも、義理を果たす為には取れない選択肢だ。
「僕がプリンも護れる結界を張れれば良かったんだけど……」
「『刻の繰り返し』で修行するなら、付き合うわよ。
何だったら、魔闘大会の方を制しておく?」
「そこまで繰り返すのは……」
だが、本来の体格が大きい分、肉体に宿せる魔力はプリンよりジェリーの方が大きい。即ち、魔法の威力を高く出来る。
『刻の繰り返し』で防御結界の魔法だけ練習するのは、アリだ。
そして、十三周を要してジェリーが充分な防御結界の魔法の能力に目覚めた。
今度こそ、と二人はヨーグに立ち向かった。
風属性の魔法、竜巻を起こす魔法で前回は始末されたが、ジェリーの結界はそれより強かった。
生き残って、一安心と思った二人だが、そのタイミングで、ヨーグがスプーンに攫われた。
また『刻の繰り返し』の出番だが、正直、手詰まりだった。
「スプーンを始末してしまう、と云うのはどうだろう?」
「うーん……殺人は問題視されて女王失格の烙印を無理やりに押しつけてくる可能性が否めないわ。
でも、致命傷でなければ、大怪我を負わせることは自衛の為と云う言い分で、過剰防衛にも見做されないわ」
「フェアリーを狙っているんだから、始末した方がフェアリーの為にはなると思うけど」
「フェアリーがヒューマンを『殺す』となったら、ヒューマンからフェアリーが危険視されて、結局、フェアリー全体の為にならないわ」
「なら、大怪我させるのもダメじゃない?」
「フェアリー・ハンターと云う存在に対して、フェアリー族を代表してヒューマンに批難の声を上げることができるわ!」
「成る程……」
ソレに対して批難の声を上げることは、フェアリー・クイーンとして、立派な覚悟を持っていると見做されるのであろうと、ジェリーは考えた。
先ずは、ヨーグに見つからない内にスプーンを探す必要がある。
その為に、十七周を要した。意外にも、先にヨーグがスプーンに攫われてしまうと云う事態が置き過ぎたが故にだ。
その後は、ヨーグの攻撃手段は何一つ脅威となるレベルではなく、無事に現女王の前に辿り着くことができた。
基本的に質素な家に住むフェアリーが多い中で、フェアリー族の王城だけがやけに立派だった。
旅の終わり、ではない。プリンが無事に子を出産して、初めて旅が終わるのだ。
プリンは、母体として無茶をやっていた自覚があった。
故に、数回の流産は覚悟の上なのだが。
まさか、万全に回復魔法を掛けておきながら、二十三周もする事になるとは思わなかった二人である。
無事に産まれ、産声を聞いた時には、二人とも、やれやれと云う思いである。
産まれた子には、『ナナホシ』と云う名が与えられた。
獅子座の産まれ故の、『獅子身中の虫』として、『天道虫』から拝借した名前である。
これで、プリンは無事にフェアリー・クイーンたる第一位の継承権を得た。
と同時に、二人の旅の終わりを意味するのであるが、プリンはジェリーに、プリンの代に限っての『宰相』と云う地位を用意した。
本人からの、強い要望も無い。強く拒否権を行使されたら、流石に『宰相』の地位は据えることができなかったので、プリンには嬉しい誤算だった。
どうにも、ジェリーには義理で付き合ってくれたけれど、強くプリンを補佐する意思が旅の中でも見えなかったのだが、フェアリーの国である『森の国』は、エルフも住民としているため、ジェリーは強く拒否できなかったと云う事情は、プリンには伝わっていない。
とりあえず、これで一安心。ではあるのだが。
二人とも、プリンの女王即位の際に、またひと騒動あるのではないかと、気が気ではなかった。
少なくとも、プリンが時期女王確定によって、ヨーグの捕縛命令が出された。
未遂犯とは云え、殺人の未遂は最低の犯罪であった。
懲役一年。本来、寿命の短いフェアリーにとって、充分に重い刑罰であった。
だが、未だプリンは玉座に就いてはいない。玉座に就いて、初めてフェアリー・クイーン即位となるのだ。
未だ何か、ひと悶着があるような気が、ジェリーにはしてならなかった。