第5話 大会本戦
一日目を終え、大会本番の四回戦決勝トーナメント。
プリンは艶々と、ジェリーはへとへとになって朝を迎えた。
何なら、睡眠時間を繰り返してもいいかも知れないと、ジェリーは半ば本気でそう思った。
朝食は、腹八分目よりも少し少ないくらいを食べて、腹ごなしに少し身体を動かした。
そうして、決勝に向かうわけであるが、王都の上にこの大きなイベントがあるとあって、会場への到着には遅刻しそうになった。
「出来れば優勝を狙ってね、ジェリー」
「君こそ、ホントは優勝を狙っているんじゃないか、プリン」
お互いに、気合は充分であった。
それぞれの選手控室に向かって、すぐに対戦は始められる。
ジェリーは最初、回避を繰り返すだけであり、余程の隙がなければ攻撃は控える。次周に備えてだ。対戦相手の癖を読むのだ。
一方、プリンは、相手の使う魔法を見極める為に、防御結界を張り、攻撃の様子を窺う。隙があれば攻撃も容赦なし。だが、そうはいかないのが決勝戦だ。
決勝一回戦目に勝つ為に、二人は二周を費やした。食事は宿では取らず、屋台で買い食いをした。全く同じ食事と云うのも飽きるかと思ってのことだ。
二回戦目。プリンは圧倒的な実力者に当たり、勝利を半分諦めたが、ジェリーが諦めるまでは手を抜くまいとした結果、七周で二人とも勝利した。
問題は、その先である。既にベスト四が決まっている。あと二回勝てば優勝だが、どのラインで諦めるかを、双方で相談していなかった。
ジェリーは勝てそうなら繰り返しは確定であり、プリンは無理して勝たないでもいいと云う程度の認識であった。
それでも、二十周近くを要して、ジェリーは準決勝には勝った。プリンも、その周の時に、たまたまポロンと勝ちを拾ってしまった。
「もう止めよう。最終決勝戦でまで、『刻の繰り返し』で誤魔化して、下手に勝ったら、その後が怖い」
「何を弱気言ってるのよ!『手加減禁止』!この鉄のルールに背くなんて、父さんが許さないわ!」
だが、彼是百試合近くを繰り返しているのだ。いい加減、休みたいと云うのが、ジェリーの考えだった。
「……そうか」
ジェリーは名案でも思い付いたかのように、空砲ばかりを詰めた拳銃を取り出して自らの蟀谷に向かって放った。
これにより、睡眠時間が確保できた。
食事は何周か回って、今回は宿屋の朝食を頂いた。
遅刻する事無く会場に辿り着いて、──一気に決勝まで勝ち進めるほど甘い試合ではなく、決勝まで勝ち上がる為に、四周を要した。
そして、立ち向かう決勝戦。ジェリーは一見して確信した。準決勝の相手の方が強かった、と。
それは、プリンも同様であった。魔法に因る攻防は、パターンさえ掴んでしまえば、繰り返してもほぼ確実に勝てる為、四周を全て勝ち上がった結果、プリンの方は相手が準々決勝の方が強かった。
だとすれば、繰り返すまでもない。双方共に、一度で勝とうとして、見事それを成し遂げた。
二人ともに優勝。それ自体は良かった。だが、双方共に目立ち過ぎた。
表彰式を終えて宿への帰り道、プリンは何者か──恐らくスプーンによって攫われた。
「こんな事で繰り返すのは嫌だよぉー」
そうは言いながらも、ジェリーは仕方なしに『刻の繰り返し』をもう一度、行うのであった。