第1話 妖精攫い
窮地を脱した二人。
だが、安心できるほどの保証など何もない。むしろ、ジェリーの知識に因れば、『フェアリー・ハンター』と云う妖精攫いの輩がこの世にはいることが、中々に厄介らしかった。
そして、約五時間後、プリンは虫網のようなもので妖精攫いに攫われてしまった。
追い掛けるも追い付けず、ジェリーは仕方なしに、空砲の弾だけを詰めた拳銃を、自分の蟀谷に向かって放った。
パァーンという銃声が耳に響いたのも一瞬のこと、ジェリーは謁見終了直後に戻った。
「危なかったね」
「うん。まさか、攫われるとは思わなかった」
そして、ヨーグの手による暗殺からの回避と云う手間を繰り返して、攫われる前にプリンはヒューマン形態を取る。
これならば、知らなければ妖精として攫われないだろうし、抵抗の余地もある。
それでも、このタイミングから攫われるのを、二回繰り返した。
妖精攫いからの回避のキーは、捕らえようのない上空への回避であった。
そして、プリンは上空からジェリーの後をついて行く。
ジェリーは妖精攫いの追跡を振り切り、三十分程で妖精の森を出てプリンと合流した。
目指すは、武闘大会及び魔闘大会が行われる会場となる街。
闘技場が併設された街までは、歩いて一週間ほどかかる。
──の、前に、妖精攫いについて、情報を収集する。
泊まった宿の主等から情報を集めたところ、この辺で妖精攫いをしているのは、十中八九、スプーン・サカジーなる人物らしい。
腕は確かだと云うのだから、困ったものだ。だが、仕事がスマートで、荒事には持ち込まない人物でもあると云う。
それを可能としているのが、妖精のヒューマン化を解く秘薬を独自に処方しているそうだ。プリンも、それによって捕らえられた。
問題は、プリンの顔を覚えられているか否かと云う点にもある。
覚えられていたら、秘薬を掛けられて捕らえられる、と云う可能性もある。
とは言え、秘薬と云えど、突然女性が液体を掛けられて、妖精で無かったら、騒動になることは間違いない。
逆に、二人はスプーンの似顔絵でその容貌を覚えた。これで、多少のアドバンテージは握れた筈だ。
二人は最初に寄った街でそれだけの情報を掴むと、一泊宿を取って、翌朝早く、街を出た。