本格的な結婚式

第50話 本格的な結婚式

 『俳優・女優』の募集のチラシに、少しずつ応募が集まって来た。

 だが、それなりの人数が揃うまでは、撮影する演目も決められないし、応募者の内、有望な者に、『しばらくはアルバイトをして生活して欲しい』と告げる。

 それにより、去る者も居た。

 だが、去った者は、人数が揃って演目が決まり、撮影が始まると、強く後悔をした。

 ギャラそのものは、然程高くない。

 だが、デッドリッグとローズが同意した条件として、上映が好評だったら、追加報酬を支払うと云う方針があった。

 勿論、それを演者に伝える事はしない。

 だが、主役級の俳優・ヒロイン級の女優には、その仕事だけで生活出来るようにはしてやりたかった。

 撮影が終わると、編集して上映に備える……のだが。

 ローズが、業を煮やしてデッドリッグに直訴した。

「閣下。領地を与えられたら、本格的に挙式するのではございませんでしたか?」

「あっ……!」

 デッドリッグは、すっかり失念していた。

「……収穫を終えて、素材を十分に得てからゆっくり、と考えていたら、失念していた……」

「あら。では、もう少し早く、挙式するつもりではいらしたのですか?」

「うん。でも、動画映写機の開発をしていたら、すっかり失念していた」

 ゴメン、ゴメンと謝罪するデッドリッグ。

「でも、準備は指示していたから、来週には式を挙げられるかな?」

「あら。そんなに急いでは、招待客を招く時間が無いのではありませんか?」

「……そうか。

 日程を、来月位に予定して、招待状を送ろうか」

「あら。それでは、来れる方と来れない方が生じてしまうのではありませんか?」

「うーん……でも、それはしょうがない。祝辞位は送ってくれるだろう」

 と云う事で、1ヵ月後にデッドリッグと6人との挙式が挙げられる事が決定した。

 配下に指示を出すと、その動きは早かった。

 結果、集まる人数が3桁に届きそうになったので、場所を王都の一番大きなホテルの大ホールを予約して行わざるを得なくなった。

 まぁ、辺境のケン公爵領より、王都の方が来客の移動は楽だ。

「料理の手配はホテルに依頼して、ウェディングケーキのみ、コチラで用意したら良いか」

「正直、ウェディングケーキは一度済ませておりますし、『レシピを寄越せ』と言ってくる来客の可能性を考えたら、無くても構いませんけどね」

「なら、俺らの間で多数決を取っておこう」

 多数決の結果、ウェディングケーキは用意しない、と云う決断が下された。

 ホテルの大ホールの予約と食事の手配も済んでいるし、招待状の返事と云うのも揃いつつあった。因みに、会場に関しては速達で追記してある。

 そして、ケン公爵領を賜ってから約1年。ようやく、デッドリッグと正室ローズ、側室との結婚式が挙げられた。

 結婚式に関しては、デッドリッグやローズからの挨拶、それが済むと、デッドリッグと花嫁とが並んで座る方へ、身分の高い者から挨拶が行われる。

 食事に関しては、客の分は十分に揃えられたものの、デッドリッグ達は端から食べる時間など無いと判っていた。

 全員からの挨拶が済むと、デッドリッグによる閉幕の挨拶が為され、客が順々に帰ってゆく。

 全員が帰った後に、7人はようやく一息ついて、服も着替え、予約してあったロイヤルスウィートの部屋で、結婚式の余り物の食べ物を纏めて貰い、それを食した。

「終わりましたわね」

「ああ、終わったな……」

 疲労の色濃く、ローズとデッドリッグがそんな事を確認し合う。

「今日は疲れた。さっさと休んで、明日、領地に帰ろう!」

「そうですわね……。

 皇帝・皇后両陛下が揃った結婚式なんて、疲労の原因にしかなりませんでしたわ」

 そんな事を言いながらも、ローズは自分たちの立ち回りを考えて、卒なく熟した自信はあった。

「俺も、父上・母上が揃って来てくれるとは思っていなかったんだがなぁ……」

「それで?映画の方は、無事に上映出来る予定ですの?」

「……一度、観て貰ってもいいか。

 一応、持参してある」

「観たいですわ!」

 横たわったベッドから身を起こし、ローズがそう要求する。

「うん、部屋を暗くして……ソコの壁に映写する形で良いかな?」

 ヒロイン達がカーテンを閉めて回る。

「題材は、『Devil or Angel』にした」

「ほほぅ……」

 まずはBGMが流れ始め、そう云えば録音をお願いされたなと、ローズ達は思い返す。曲名も『Devil or Angel』である。

 一通り皆が感心して観ると、観終えた後、こんな感想が出た。

「凡作ね」

 そう、決して傑作では無かった。傑作と言えば因みに、デッドリッグが前世でデッドリッグの公開処刑を決める選択肢を、必ず『そいつは傑作ですね!』と云う選択肢を選んでいた。

 デッドリッグが、そんな事を思い起こしていると、ローズ達の表情は険しかった。

「盗作はしたくないけど、そんな事を言っていたら、傑作は生まれないわよね」

「いやいや、流石に盗作はマズいだろう」

「折角の異世界ですのに?」

「それでも俺は、盗作はしない!

 ──知名度が低い作品に対する、偶然の一致は辛うじて許す迄も」

「それは当然ですわ。

 偶然の一致迄許さなかったら、創作活動なんて出来ませんわ!」

 兎も角、ああでもない、こうでもないと意見をみ交わしつつ、次回作の計画を立てて行くのであった。