第46話 温度差
「暇ですわね……」
ローズは、一人、皇国高等学園に通いながら、そんな事を呟いていた。
週末には、デッドリッグに会う。毎週では無いが。
だが、卒業する気が無いローズに出来る事は……学年首位の成績を維持する事位である。
そう。ローズは基本、真面目なので、予習もすれば復習もする。
ソコまでやらなくても……と云うレベルまで努力するので、学年首位が楽勝なのだ。
ソレは、偏に、映写魔法機の40万枚を超える絵の撮影と云う困難を乗り越えたから出来る事だ。
皇国高等学園とは、勉強をする為に来るところだ。皇国学園のように、基礎知識を習う場所では無い。
ローズの掲げる目標は、『寒冷地に於ける開発事業』の具体的な方法を学び取る事である。
単位も、ソレに役立ちそうなものばかりを選び、役立たなそうなものは、単位の取得を申し込みもしていない。
まぁ、若干、暇潰しに通っている講義もあったが、ソコでも首位の成績を叩き出すのだ。
殆どのテストが、満点かソレに近い。
ミスリル銀の製法が失われたとの情報を聞きつければ、即座に駆け寄ってミスリル銀の作成を実演して見せる等、成績は満点を超える、『極』と云う聞いた事の無い単位を取ったりもした。
一部の『極』と云う成績を除けば、オール『優』。負ける訳が無い。
論文を書かせれば、『コレは新説だ!』等と言う騒ぎになるのである。勿論、そんなものは興味を持っている講義に限ってだが。
──とまぁ、皇国高等学園で無双している訳である。
そして、ある日、ある土曜日。──因みに、曜日は七曜制である。
デッドリッグとのデートの日で、楽しくも、別れの切ない気持ちにブルーになっていた時に。
「そういや、最近、国からちょっとした収入があってだな。
──もしもその気があるのなら、ホテルに行くのも吝かでは無いが──」
「行きます!」
ローズは、食い気味に言った。直後、はしたなかったなと反省するが、気分が高揚するのを抑えられない。
「あー、ココで良いか」
そう言ってデッドリッグが止まった先は、市内で最高級のホテルである。
「えっ!?殿下、ちょっとした収入って、ひょっとして、かなりの金額だったりするのでは──」
「ココが嫌だと言われても、コレ以上は望めないぞ?」
「いいえ、嫌だなんて、そんな訳がある訳無いじゃないですか!」
「うん。だったら、素直に『ハイ』とでも言っておけ」
「ハイ……」
『旦那様』とでも続けたかったローズだったが、未だ正式に皇国からデッドリッグの正室と認められた訳では無い彼女は、ソコはお茶を濁した。
その先の事は、描いてしまうのも問題になるので、お茶を濁しておく。
翌朝、肌を艶々とさせたローズは、気分良く高等学園寮に戻るのだった。
ソコにお邪魔虫は登場しない。
──否、デッドリッグこそが、皇子ではあるが。
やはり、ローズ達はバルテマー皇太子と結ばれていた方が幸せだったかも知れないなと、デッドリッグは思ったりするのだが。
ローズ側からすれば、男性キャラ人気No.1であるデッドリッグは、共有は出来ても譲る事は出来ない相手だったのではあるのだが。
デッドリッグの有する、『アルフェリオン結晶』の製法を以て、『飛車』の発明に至ったのは、出費も多かったがそれを回収して尚余りある利益を出しているのであり。
デッドリッグによる領地の開発は、前途洋々としていると、今の時点では思って信じられるのであった。
だが、デッドリッグからして見れば、前途多難でチマチマと資金稼ぎをしているのであり。
寒冷地の開発が順調に進められるものであるのかも不明であり。
そして、『公開処刑』の運命が、どう動くものか、イマイチ不明でそれも不安であるのだった。
だが、デッドリッグの周囲では『公開処刑』の運命を穏便なものにするか、そもそも無くしてしまう事も検討されているのであり。
特にデッドリッグの正室候補であるローズは勿論、側室候補の5人も、デッドリッグを死なせる運命だけは、絶対に避けようと陰で動いているのだった。
ソレをデッドリッグ自身に伝えないのは、6人の優しさに依るものであり、下手にデッドリッグに知られて失敗に終わってしまう事は、絶対に避けたい事案であった。
狙うは、『公開処刑』の完全回避。回避し切れなかった時は、文字通り一肌脱ぐ覚悟は6人とも決めているのであった。
因みに、ローズ達6人は、デッドリッグの『公開処刑』の完全回避、又は穏便な手段に因る解決ルートを確認済みであり。
唯一人、何故かデッドリッグだけが、ゲームの『ヘブンスガール・コレクション』でのデッドリッグの『公開処刑』の回避のエンディングを見た事が無いのであった。
デッドリッグとローズ達6人との間にある温度差が激しく違うのは、前世のゲームでの経験値の違いの差でしか無かっただろう。