第44話 オーバーテクノロジー
『飛車』の試運転を行って、バルテマーはデッドリッグと話す。
「何だな。自分で運転する前提で乗ったら、事故りそうで怖いものだな」
「そうでございますね。
オR──私の場合、開発者責任として、性能を確かめる必要があるので運転するのですけれども。
そもそもが、仕組みを厳密に知っているのは、私を含めてほんの数名なのですよね。
コチラの世界の『龍語魔法』に従ってコアを仕上げても出来る事は判明したものの、性能は5割落ちですねぇ……」
「『龍語魔法』が、そんなに万能な魔法では無く、かつ、ダイナミックな魔法故、暴走を抑えて使うのも一苦労だろう」
「うーん……と云うよりも、そもそもが、『龍語魔法』を、言語の意味を理解して使っている者が居ないと云うのが最大の問題点ですね。
因みに、『日本語』で命令を書いても、ある程度は機能するのですよ?」
「それは……そもそもが『命令』と云う形をしていれば、どんな言語でも同様の事が言えるのではないか?」
デッドリッグは、たっぷり10秒悩んだ。
「……そうであるのかも知れませんが、試す手段が限られてしまいますね」
「先ずは『エンピリアル国語』を試してみてはどうだ?……それとも、まさか試験済みか?」
デッドリッグは一瞬、食い気味に返答をしようと思って、止まった。そして、全文を聞いてから回答する。
「ええ、試験済みでございます。
5割落ちの更に5割落ちで、1/4程度の性能しか発揮出来ませんね」
「……ん?最速で音速近い速度が出せるのだろう?
1/4程度の性能でも、十分では無いか?」
「量産に際しては、そうでしょう。
けど、今、目指しているのはレース用の機体なのですよね。
だから、少しでも性能を高められないか、試験を行っているのですけれども……。
少なくとも、このコースを使う限りは、量産型でも十分に走れるでしょうね。
けど──」
デッドリッグはその続きを言い放つ事を躊躇って、バルテマーがこう促す。
「けど、何なのだ?
まさか、もっとスケールの大きいレースを目標にしているのか?」
ハハハッと苦笑して、デッドリッグはこう答えた。
「ええ。惑星──『8thアース』であるココで、地球半周レースを開催したいと考えておりますが……。
ええ、流石に無理であろうことは、私も察しておりますよ」
「そもそも、この国では、『8thアース』での全貌の地図すら持っておらん筈だ。
言うは易く行うは難しとも言う通りだ。
地動説──は、既に認められているな。
だが、東西南北の果ての確認をされたと云う話も聞かん。
『F-8Eハーフ』とするのは、相当な無理がある」
「……因みに、『F』を何処から取ったのか、訊かせて頂いても?」
「ああ、『フライトカー』の頭文字だ。
……相応しく無かったか?」
「いえいえ。
兄上がそう仰るのでしたら、ソレを実行出来た際には、その仮称を採用させて頂きますよ」
「そうか?
有り難いものだな。終生に渡って誇れる『名付け親』になれれば、その提案も嬉しいものだな。
地球でも、『飛ぶ車』自体は発明されていた筈だな。こんな出鱈目な性能を誇るものでは無いが。
仕組みそのものが全く違う。
そもそもが、魔法の存在の有無と云う、根本的な違いがあるのだろうが」
デッドリッグが、独りクスッと笑った。バルテマーは、それが不満らしかった。
「……何がおかしかった?」
「いえ……。
『インターネット』の存在によって、インターネット端末である、スマホ等で命令を下せば、ある程度の『魔法』に近い現象を引き出せるのになと思っただけでございます。
決して、嘲笑した訳ではありません。
ただ……。兄上は、コンピューターに疎かったのだな、と」
「『魔法』に近い現象を引き出せる?
どうやってだ?」
チッチッチッと、デッドリッグは舌打ちしながら人差し指を揺らした。
「コンピューターは、『命令』を嫌うのですよ。
だから、そんな簡単に手の内は晒せません」
「『嫌うな』と命令すれば、嫌われない……訳が無いな。
だが、コンピューターは命令で動くものだろう」
「だからこそ、素人に毛の生えた程度の者には、命令されたくないのではないですかね?」
バルテマーは、前世の経験がデッドリッグ程で無かったが故に、デッドリッグの仮説に反論を持たなかった。
それでも。
「デッドリッグがコアに刻んでいる『龍血魔法文字命令』も、命令では無いか!」
この程度の気付きには至る。デッドリッグは、反論に困りながらも、こう言った。
「まぁ、コアに刻んでいますからね。
コンピューターに命令を下すのとは、また訳が違うのでしょうよ」
バルテマーが、うんと唸る。
そして見出した結末が。
「だが、『地球』に比べて、この『8thアース』では、コンピューターの発展が今一つだな」
デッドリッグに言わせれば、コンピューターの発明が画期的であるのだし、コチラの世界には『龍血魔法文字命令』があるのだから、発展が遅くても仕方がない。
否、未だ、コンピューターの発明に至るだけの技術的発展に至っていないとも言える。
だが、一歩開発に取り組み始めれば、その発展は相応に早い筈だがとも思うデッドリッグ。
イチ計算機の発明から始まる、コンピューターの発明と発展。ソレが為されれば、魔法も存在するこの世界で、前世以上の性能のコンピューターが発明される未来は、ほぼ間違いない。
魔法と云うのだから、『魔界の法則』だ。魔界は、ラジオの発明から始まり、テレビで発展する。
だが、現在では未だ、旅芸人が扱う技術が最先端だった。既に過去形だ。
現在の最先端は、アニメ映画の映写魔法機か、『飛車』が魔法の最先端となる。
そう、動画の撮影技術抜きで、アニメと云う魔界が公開されているのだ。
魔界は、『もう一つの世界』。物語世界は、十分に『魔界』と言える。
そう云う意味では、文章の世界や絵本の世界も、『魔界』と言え得る。
そして、漫画の発明をすっ飛ばして、ローズ達は『アニメ映画』を放映したのだ。
どれだけのオーパーツだと言うのか。そしてそれを、作る技術は既にローズ達が確立しているのだ。
そりゃ、動きがぎこちない場面があったり、技術的に『完成していない』技術だと言わざるを得ないが、既に何本か作品を仕上げている。
絵を描くと云う文化は、既に学園生に至るまで、教育が施されるに至っている。でなければ、ローズ達が絵を描く作業を委託する先が無い。
「兄上、ローズ達が既に、コンピューターの発展形の一つを作り上げておりますよ」
デッドリッグとしては、ソレを指摘するのみだ。
「うン?──ああ、あの映写魔法機か。
ソレを言えば、『飛車』も随分なオーバーテクノロジーでは無いか」
「アレはですね。コンピューターと呼ぶには語弊があります。
魔法機の産物です。まぁ……ソレを言ってしまえば、映写魔法機も魔法機の産物ですが、アッチの方が未だ、コンピューターに近い」
「そうか?謙遜しなくて良いぞ。『飛車』は立派な魔法機の発明品だ。
いずれ、国が放っておかない」
だが、二人も、その前に国が違う事に向けて動くとは、予想していて然るべきである事に、『まぁ、時間の問題だ』と、先日から先送りしているのだった。