冥利に尽きる

第42話 冥利に尽きる

 魔法祭・威力部門。

 ソコで、デッドリッグは狙った通りに2位を取ったのだが。

 その得点は、1728点。そして、バルテマーはソレを1点だけ上回る、1729点。

 自分の実力で出したその得点に、バルテマーは顔面蒼白になる。

「死ぬのか?俺は死ぬのか?!」

 高が数字に、畏れるバルテマー。

「ああ、兄上は前世で、『キュウ』を極めた経験が無いんですね」

「何を……言っている?デッドリッグ……?」

「単純に、『キュウ』と読む字を全て挙げれば、『キュウ』の縁起の悪さは乗り越えられますよ♪♪」

 デッドリッグは余裕の様子でそう述べる。

「それこそが、『究極』に至る一本道です」

「そんなことで……?何の意味がある?」

「『キュウ』に関わる事で、急死の縁起の悪さから逃れられますが、それ以上の何を求めますか?」

「究極なんぞ、そんな簡単な事では無いではないか!」

 デッドリッグが「うーん……」と唸る。

「いっそ、一度やってみますか?」

 バルテマーは首を横に振る。

「そんな恐ろしい真似が出来るか!」

「でも、乗り越えないと、急死の運命ですよ?」

「……日本語で構わないのか?」

「ええ、殆どが日本語ですね。でも、『Q』もありますよ」

 デッドリッグが教室の黒板にチョークで『Q』と描く。

「……本当に、そんな事に意味があるのか?」

「ええ。少なくとも、『9』を畏れる必要が無くなります」

 そう云って、デッドリッグは一文字ずつ書いてゆく。

 級・旧・九・急・球・休・給・灸・窮・及・吸・救・泣・求・弓・汲・糾・朽・厩・宮・丘・笈・鳩・久・究・仇・扱・臼・舅・裘・邱・玖・糺・赳・9・Q・q……。

「──とまぁ、この位ですかねぇ?

 個人的には、『映画を極める』のもオススメなんですけれど、コチラの世界では不可能ですねぇ……」

 バルテマーは、その言葉にピンと来た。

「『栄華を極める』のか!

 ……恐ろしい事をするものだ……」

「ああ、俺は『映画』は極めていませんよ。

 ただ、前世で一人、有名人が実行していたのを覚えてはいますが」

「ああ、彼の人か」

「ええ、恐らく、その人です」

 名前に『G』を付ける事を畏れなかった彼。流石である。遠く及ばない者の身としては、羨ましくもある。

「まぁ、『左端』への呪いに掛かっていましたけどね。『Dグラス』なんてものを作ってしまったが故に。

 でも、『怒り狂った』経験の持ち主には、避け得ない宿命ですよ」

 真に怒り狂うと、人はどうなるのか。ソレは、知らない方が幸せだ。

 アレが七つの大罪とソレに対応する魔王と云う存在を創造したが故に、犠牲になった者は大勢いる。

 その当時、周囲からは馬鹿にされていたと云うのも、納得の悪行あくぎょうである。

 そんな預言なぞしなければ、犠牲にならなかった者は大勢居たであろうに。

「──それは兎も角、兄上も試験運転で乗ってみませんか?『飛車』こと、フライトカーに」

「……初耳だな。

 お前は、そんなものも創っていたのか」

「何しろ、目標が『龍王』ですからねぇ。

 名乗る事は簡単でも、実際に『成る』には、まず『飛車』から始めないと」

「お前の乗る助手席に座れと言うのか?

 余り気乗りしないイベントだが」

「操作説明を聞いて、まずは俺が助手席に座りながら試験運転して、慣れたらヒロインとの空への旅~、なんて云うのも素敵ではありませんか?」

「良し、乗ろう!」

 一瞬、バルテマーは恐ろしい思いをしたが、気にしない事にした。

「しかし、神様の位置は真ん中より少し左上だと云うのに、何故、『左端』は嫌われるのか……。

 『極右』は危険だと云うのに。それすら判らないのか!」

「おい、デッドリッグ。俺が乗るのは、右側の席か?それとも左側の席か?」

「うーん……、運転席が右側である以上、乗って頂くのは左側になりますが、宜しかったですか?」

「否、何も問題ない」

 ソチラはそうでしょうねと思いながら、デッドリッグはバルテマーを引き連れて、魔法機部に向かう事にした。

「あ、殿下!前に受け取った『スーパーパワーコア』、凄い性能ですよ!」

 魔法機部に着くなり、部長がデッドリッグにそう挨拶をした。──否、今のが挨拶と言えるだろうか?

「ああ。相乗効果で、数トンの荷物も運べるだろう?」

 何だかんだ迷っていたデッドリッグだが、『スーパーパワーコア』も、魔法機部に預けてしまっていたのだ。

 その効果の実験が、余程巧く行ったのだろう。部長は喜色満面きしょくまんめんだ。

「で、ソチラは彼のバルテマー殿下ではなかったかと思うのですが……」

「如何にも。俺がバルテマーだ」

「大変失礼致しました。

 ところで、何用で?」

「『飛車』の試運転に来た。

 兄上にも操縦方法を説明するので、試運転に慣れたら、兄上にも操縦させてやってくれ。

 どうせ、少し前に依頼のあった、『セキュリティコア』で、判らない者には操縦すら出来ないように仕上げてしまったのだろう?」

 そのデッドリッグの言葉に部長は苦笑して言った。

「『18CSイチハチシーエス』になってしまいましたが、無茶しなければ、大した出来になってしまいましたよ。

 まぁ、音速近い速度を出すと、かなり揺れますがね」

「陸上トラックのコースで少し浮いて時速60キロ程度で走るだけだから、問題ないだろう?」

「ええ。デッドリッグ殿下の腕前なら、問題ないでしょうね。

 ──で、バルテマー殿下には、何処まで明かしてしまうおつもりですか?」

「──ん?操縦方法程度だ。問題無かろう。

 『セキュリティコア』を解除してくれ。後は俺が操縦して説明する」

「了解!

 おっと、バルテマー殿下が相手でも、『セキュリティコア』の解除方法は教えられませんぜ。

 それでよろしければ、早速にでも」

「なるはやで頼むよ」

 部長が、部員に指示を出す。10分も待たない内に、陸上トラック内の『飛車』へと、二人は案内された。

「コレが……『飛車』?!殆ど『UFO』ではないか!」

「兄上、未確認ではありませんから、『UFO』ではありませんよ?」

「前世に於いても、『UFO』とは『飛車』の事だったりしてな!」

 ハハハッと笑うバルテマーだが、デッドリッグには何処が笑うツボだったのかが判らない。

「あ、部長!『笑うつぼ』とか作れたら、ひとネタになりそうな気がしたんだが」

「それの何処に実用価値があるのかは判りませんが、確かに、『笑うかどには福来ふくきたる』と言いますし……。

 まさか、今度は『笑う門』を作れなんて言わないでしょうね?」

「むぅ……面白いと思ったのだが、没かぁ……」

 そんな会話をしながら、三人は『飛車』へ向かう。

「一応、この陸上トラックの上しか飛べないように『セキュリティコア』を設定していますから、大丈夫だとは思いますが……。

 ただ周回するだけでしたら、自動飛行も可能ですが?」

 それに、デッドリッグは首を横に振る。

「自分で操縦するのが楽しいんじゃないか!

 それにしても、自動周回出来るのか……とんでもない物を作ってしまったな」

「コレで、今年はレース用に試験機をもう一台作るのですから、大変ですよ。ハッハッハ。

 魔法機師冥利みょうりに尽きますね!」

 そう言って、部長は高らかに笑うのだった。