プレゼントの差

第34話 プレゼントの差

 そして、バルテマーとダグナのデートの日が訪れた。

 そこに、偶然を装ってバルテマーと同じ経路でデートする、デッドリッグとローズの姿が。

「おや、偶然ですわね、皇太子殿下」

 ローズは畏れも何もあったものではない。既にミュラー公爵から、例の品を受け渡す店は決まってバルテマーにも、そしてローズにも連絡が入っていた。

「お父様ったら、『学園生は学園生らしく、学園生同士で連絡を報告しなさい』なんて仰るのよ?」

 それは、ローズにも報告が入る筈だ。

 それを改めて、ミュラー公爵からの密書とか云う、如何にも怪しい連絡が取られたのだ。

 今日、バルテマーが暴漢に襲われて全財産を奪われれば、血の涙を流す事だろう──否、襲った側が命の危機に瀕するか。

 当然、護衛は居るだろう。と云うか、あからさまに『護っています』感を出していて、ローズなんかは「プッ」と吹き出す場面もあった。

 バルテマーはデートコースが決まっているようだが、ローズはデッドリッグと共に、引き渡し店での待ち伏せだ。

 ローズとデッドリッグには紅茶と茶菓子が出されて、のんびりと待つ事、四半日。やっと、デートの仕上げとして、プレゼントを購入する場面だ。

 当然、ミュラー公爵家の護衛も、バルテマーの護衛も控えている。

 この日、もしもこの店を襲撃する予定のあった強盗が居たのならば、即座に御用としてひっ捕らえられる事だろう。

 デッドリッグも、一応護衛の対象だが、デッドリッグの『本気』とやり合える護衛など、数える程しか居ない。

 むしろ、デッドリッグに暴れられたら、護衛達は非常に困るであろうことに、お互い判っているので、サービスで紅茶菓子が用意されている訳だ。

 そして、本来であれば、バルテマーが醜態を晒す場面をデッドリッグが目撃するであろうから、6又とは別件で、そんな場面をわざわざローズと共に観に来たのだ。

 そりゃ、『デッドリッ屑』呼ばわりもされるだろうよと云う場面なのだが、今のデッドリッグにその自覚は無い。

 ただ、バルテマーがダグナを連れて来た時、デッドリッグはローズに、『席を外そう』と提案したが、ローズが『観たいですわ!』と云う我儘が炸裂した。

 その為、デッドリッグがバルテマーに対し、同席の許可を乞い、バルテマーはローズとの板挟み関係を見極めて、許可を下した。

 大義名分、成立である。

 肝心の、真珠であるが。

「大金貨100枚。この中にある筈だ」

 と、デッドリッグが代金を先に支払おうとするが、店員が。

「一応、数えさせて頂いて構いませんか?」

 そう断って来る。バルテマーは、即座に許可を下した。

 店員が、大金貨10枚の山を作っていった。そして、10山目。

「……一枚、足りませんな」

「そ──そんな!

 馬鹿な、何度も数え直した筈だ!」

 バルテマーは、珍しく取り乱した。

「まぁ、よろしいでしょう。負けて差し上げます。

 序でですから、贈られるお嬢さんにディナーへとお誘いする代金分、値引いて差し上げますよ。

 ああ、店は念の為、予約してあります。大金貨2枚なら、足りない事はまず無いかと」

 そう言って、店員は大金貨2枚をバルテマーに返してから、大金貨を仕舞い込み、真珠の──豪華なネックレスを持って来た。

「真珠99個を用いて造った、最上級品に近い品物となります」

 ソレは、ダグナが身に着けると、彼女の胸元を輝かせて、イチ男爵嬢には似つかわしくないもの──かと思ったら、彼女の浮かべた笑顔は、正に『お姫様』であった。

「あー……コホンッ。側室故、100点満点の待遇は約束出来ないから、側室として、100点に1点足りない、『百』から『一』を引いた『白寿』までの誓いの証だ。

 君なら、この言葉の意味を理解して、その品を扱ってくれると云う願いを込めて用意した。

 失礼ながら、側室として、俺の支えとなって欲しい」

 ローズが、小声で『キャー!!』と叫ぶ程の、クサいセリフであった。だが、デッドリッグは若干の寒さを感じたのは、言わない方が良いだろうと思っていた。

 ダグナは、顔が真っ赤である。

「も、勿論です、殿下!」

 ダグナの返答もやけにボリュームが高く、半分裏返ったような声ではあったのだけれど、承諾しょうだくの返答をした。

「良かった……。

 ダグナ、これから宜しく頼む」

「ええ。ええ、勿論ですとも!

 側室とは言え、これ程の品は、女冥利みょうりに尽きます」

 そんなやり取りを聴きながら、デッドリッグは『アレは重くは無いのかなぁ……、物理的に』等と見当違いの事を考えていた。

 ダグナは、ローズに対して『ドヤ顔』をするのだけれど、ローズは勿論、嵌めて来る事を忘れてはいなかった。──薔薇の模様を内部に刻んだダイヤのリングを。

 それを、顔のちょっと下に手を構えて見せ付けると、勝敗が決まったらしく、ダグナは悔しそうな顔をした。

「コレが、1点足りない貴女とワタクシの差ですわ。

 では、参りましょう、殿下。──『セブンス・ヘル』へ、お食事に」

 ローズは、バルテマーまでをも愕然とさせた。

 バルテマーが手配していた、今夜の夕食を食べる店こそ、ローズがその名を言った『セブンス・ヘル』なのだった。

 尚、ダグナは何となく察したようで、「まぁ、メインヒロインとの差よね」等と宣わったのだった。

 未だ、バルテマーとダグナのデートは終わっていないのだった。