第33話 恩を売る
二人の皇子の結論は、本人の希望を聞いての案件となった。
そこで、放課後に会議室まで呼び出されたダグナ。
待っていたのは、皇子二人だけである。
「ダグナ、君に訊きたい事がある。遠慮なく、正直に答えてくれ。
──実は、君を俺とデッドリッグの、どちらが引き取るかを君の希望に沿う形で意見を採用したい。
他を選んでも良いが、その場合、惨殺の可能性がある。
知っている以上、見捨てる訳にはいかない。
君の望むが儘を言ってくれ」
バルテマーがそう言うと、ダグナは困惑しながらも悩み始めた。
「うーん……。
一つ、確認しておきたいのですけれど。
私、『デッドリッ屑』呼ばわりを本人に向かって言い放ってしまったんですけれど、殿下は私をまともに扱って頂けるのですか?」
「あー……」
デッドリッグは、実情をダグナに話してしまって良いものか、若干迷った。
「君の相手をするのは、42日後になってしまうけれど、それまでに決断して貰えたら、他の側室と同等の扱いをする事は約束しよう」
「バルテマー殿下を希望した場合は、どうなるのですか?」
ダグナは言いづらい事を平気で訊いて来た。
「最短で3日後。それまでに返答を考えて、答えて欲しい」
「じゃあ、お二人と1日ずつ、デートさせて下さい。その結果、結論を伝えると云う形ではダメですか?」
バルテマーは迷ったが、デッドリッグはこの様子ならとズバズバと問い掛けた。
「その場合、君の不貞を疑われて、君の立場が悪くなるけれど、それでもいいなら、その希望を叶えよう」
デッドリッグの問い掛けに、ダグナは「うーん……」と悩む。
「実は、私の中での結論は既に出ているのですけれどね。
バルテマー殿下、次の休日、私とデートして下さい。
それに私が満足出来たら、バルテマー殿下を選びます!」
「──次の休日には、多分、間に合わない。
だから、その次の休日にしてくれないか?」
「いいでしょう。
でも、何ですね。私が攻略される側なのに、私が選んで選んだ側と結ばれるなんて、ヒロインとして冥利に尽きます」
満足そうだったダグナ。
『ヘブンスガール・コレクション』の中では、真珠を贈れば攻略できると云う設定だったから、バルテマーがそれを用意するのに時間が必要なのだろう。
──だとしても、バルテマーがどれ程の品を用意するかを誰も予想だにせず、後にバルテマーの本気が判る。
「デッドリッグ。ちょっと……ローズ経由で、ミュラー公爵宛に、ちょっと購入したいものがある旨、報せて欲しいのだが……難しいか?」
「俺にはお付きの人も与えられていないのに、随分と無理を仰る。
高等学園宛に、手紙でも送っておきますよ」
それは、そこから先は関知しないが、と云う本音が透けて見える。
「でも、俺もローズも、その間に仲立ちするだけで、交渉そのものはミュラー公爵と直に願いますよ」
「ああ。判っている」
本当に判っているのだろうかと、デッドリッグは思う。
本来であれば、ローズは皇太子妃になれていた筈なのだ。しかも、正室として。
それを台無しにしたバルテマーは、相当に苦しい交渉を強いられるであろうことが容易に予測が付く。
ただ、真珠を入手するのであれば、ミュラー公爵領が最も生産量も高く質も良い。
だが、バルテマーは恐らく、全部を自分の予算で賄わなければならない筈だ。
しばらく、バルテマーは学食の『無料定食』で食事をしなければならないのかも知れない。
但し、デッドリッグからすれば、見栄を切るなら、意地も張り通せと云う事になる。
どうせ、最高学年になったら、自力での魔物狩りも必要となって来る。
勿論、パーティは組むのだろうが、バチルダ、アダル、ベディーナの三人はバルテマーと同学年ながら、協力させる事を許しはしない。
万が一の場合には、彼女らの名誉に傷が付くのだ。三人は三人と彼女たちの信頼出来る女性と組んでの魔物狩りをさせねばならない。
彼女達もソレはソレで心細いのだが、大丈夫。バルテマーの周囲には、王城から派遣された学生が男女共に居る。
今回のバルテマーからの話を通す代償として、精鋭の女性学園生に協力して貰うと云う手が使える。
悪目立ちしないように立ち回ってはいるが、その実力はバルテマーやデッドリッグを、現時点では上回る筈だ。
そして、デッドリッグも知らない事だが、追加コンテンツに付けられたサブタイトルは、『とある亡きお笑いレジェンドに捧ぐ』とされている。
序でに言うと、その追加コンテンツでは、『公開処刑』を回避し、デッドリッグは姓を『ケン』に代えた上で『公爵』となるルートの事を指す。
だが、結局は『村』なのだ。『町』にするには、相当に頑張らなければならない。
その為の布石として、バルテマーに恩を売っておくのは、悪くない手だとデッドリッグは思っていたのだった。