殴りたい屑の件

第31話 殴りたい屑の件

「「「「「「「「ええっ!??」」」」」」」」

 新入生のヒロイン候補二人から、驚くべき事実が語られた。

「……本当に、俺が主人公になって、驚くほどの屑に変貌していて、寒冷地をたまわるも、豊かな老後を過ごす迄のストーリーが、追加コンテンツに含まれているって?!」

「ええ……。お陰で、『デッドリッ屑』の評価は驚くほど下落して、下から2位、と……。

 まぁ、相変わらず、バルテマー殿下は不動の最下位では御座いますけれどね」

「……そこまでおとしめられるだけの事を、俺は何をやったのかよ」

 バルテマーが、そう言ってから、「あっ!」と気付く。

「──ローズに言い寄ったのが、綾の付き始めか……」

「ご明察の通りで御座います。

 まぁ、一部の婦女子は──ケフンッケフンッ、バルテマーと『デッドリッ屑』の掛け合いを期待していたようですけれど……。

 流石に、主要なプレイヤー層が若い男子向けとあって、残念ながらそんな結末は、どれだけどう探っても、出て来なかったのですけれども」

「……同性愛は、一部の人達はその界隈かいわいの人達だけを相手にしていれば良いが、別に奇形児の可能性がある訳でも無いが、近親相姦は犯罪だろうに……」

 それは、バルテマーですら、吐き気を催すような『if』のストーリーだった。

「で?いい加減、その『デッドリッ屑』呼ばわりは止めて欲しいのだが」

「……失礼致しました。いえ、本当に失礼でしたね。

 で?私どもへの対処は、既に考えられていたりしますかね?」

 ダグナが積極的に訊ねて来る。厄介な事態だった。

 デッドリッグは、バルテマーへと促す。

「──本来であれば、前世の記憶では一夫一婦制度が当たり前だった世界からの記憶を持ち出せば……イデリーナ殿だけを俺は迎えたかった。

 だが、次期皇帝として、側室の一人も居ないのは、コチラの世界では、逆に非常識と責をとがめられる程の事であるし、ダグナも側室として迎えたく考えている」

「「ああー、やっぱり、『デッドリッ屑』モードだわぁ~」」

 コレも、『デッドリッ屑』モードの王道の展開であるようだった。

「デッドリッグ様。大変失礼な申し出になる事は存じておりますけれども、私共に……その、前世の記憶通りの『屑展開』の代償としまして。

 私とイデリーナに、一発ずつ、顎の辺りでも殴らせていただけないでしょうか?

 世の、『ヘブンスガール・コレクション』ファンの女性を代表して」

 デッドリッグは一瞬、自分が何を言われているのかを理解出来なかった。だが、状況とダグナとイデリーナの二人の発言を思い返して、理解した。

「ああ、成る程。──身分の差もわきまえないで、よくそんな提案が出来たものだ。

 だが、それ程までにこの『デッドリッグ』モードは不評を極めたのだな?」

 ダグナとイデリーナは、一瞬、表情を強張らせた。だが、今世の自分の記憶に引っ張られてだろう、こう謝罪を述べた。

「大変申し訳御座いません。

 それ程までに、あの追加コンテンツは不評を極めましたもので……」

「……そうか。

 会議室を借りよう。そこでならば、他人の目にも付くまい。

 流石に公衆の面前でははばかられる」

 それからデッドリッグは簡易的に短時間の会議室の借り入れを申し込み、移動した。

 そして、いざ、ダグナとイデリーナがデッドリッグを殴ると云うシーンに面して。

 流石にその面子では行かせられないと、バルテマーが同行したのもあってか、殴る相手が第二とは言え皇子であるが故に、二人は順番を譲り合い、なかなか殴らない。

「どうした?短時間の借り入れだ。そんなには待てないぞ?」

「やっぱり、私には殴れません!」

「ボクもです!」

 土壇場になって怖じ気づいたらしい、二人は要望しておきながら、自らの手では出来ないと言い出す。

「じゃあ、他の誰かが代行するか?」

 ローズなら、嬉々としてやりそうだなと思いながら、デッドリッグは確認するが、5人にそこまでの不満は無いらしい。

「では、コチラの要望も伝えておこう」

 殴らないならと、デッドリッグは自身とバルテマーの要望を、二人で同意の下である事を付け加えて、説明した。

「え?私たちを、バルテマー殿下の正室と側室として迎える事が、ほぼ確定?」

「ああ。出来れば今晩までに、二人で決心して、結論を俺の部屋までに頼む」

 バルテマーのその言葉に、デッドリッグは息を吐いてから忠告を述べる。

「兄上、そうガッツくと、嫌われますよ?」

「だが!俺がどんな思いをして、この2年を待ったと思っている?!」

「あー……」

 バルテマーは、本来ならば女に困る事は無かったのだが、その今までの全員をデッドリッグに奪われたのだ。例え、バルテマーに過失があっても。

 夢精位は、何度も経験しているだろう。

「確かに、二人は兄上に嫁ぐ決意を固めて、純潔を散らす覚悟で兄上の部屋を訪れないと、皇族に対して不誠実と捉えられる可能性があるぞ?」

 ダグナとイデリーナはお互いを見ながら、おずおずとダグナが発言した。

「『デッドリッ屑』モードを以てしても、バルテマー殿下は不動の嫌いな男性キャラNo.1なのですが……」

「──んん?

 何をどうしたら、そんな結果になる?」

「自身の胸に手を当てて、これまでの行いの全てを思い浮かべて下されば、容易に理解出来るものと思われますが……」

「そうか?……──あ!そうか!

 成る程なぁ……第一印象って、大事だもんなぁー」

 デッドリッグにも、バルテマーが下心丸出しでローズに言い寄り、拒絶されたシーンが容易に頭に浮かぶ。

「で?その場合、ダグナとイデリーナは、どう云う選択肢を選ぶことになっているんだ?」

 二人が、そう言われて困った顔をした。ココで、バルテマーとデッドリッグも「ん?」と不審に思う。

「なぁ。前世の記憶があるって事は、このゲームの展開がどうなる事かも、判っていると云う事だよな?」

「──それがですねぇ……」

 前世の記憶を持って、と云う展開では無かったらしいが、二人とも、前世の記憶に目覚めたシーンから、その先を見た記憶が無いと説明を始めた。

 説明を聞き終えた皆は、協議して決意していた展開を説明する。

「えっ?!ボクが正室で、ダグナさんが側室!?」

「普通、逆ではありませんか?」

 それに対するバルテマーの意見は、以下のものであった。

「イデリーナは『聖女』として、特待生としての入園だったのだろう?

 それだけで既に、俺の正室たる資格を有している」

「嫌いな男性キャラのNo.1を相手に、それも側室として迎えられるのは、非常に不本意なのですけれど。

 ……でもまぁ、追加コンテンツが無かった時点では、私は殿下に迎えられるか、弟君に救済されるかしないと、悲惨な結末が待っているのを知っていますから……。

 まぁ、相手としては不満でも、条件面では文句はありませんから、真面目に検討しますけれど?」

「ああ、壊すつもりは無いから、安心して欲しい。

 恐らくは、ソコが最悪の俺の印象として残っているのだろう?」

「でしょうね。

 私も、そんなオモチャ扱いされるのは不本意極まりありませんから」

「ボ、ボクもです」

 言葉に反して、イデリーナは興味津々きょうみしんしんと云う様子を隠しきれていない。

「まぁ、学園内では、婚約の約束を前提として、婚前交渉が許されている事だし。

 俺としても、ソレは楽しみではあるのだが」

「うー……前世の記憶で、手順を知っていそうな殿下の相手をするのは、少し、怖くもあるのですけれども」

 そう言って肩を抱くダグナに比べ。

「じゃ、じゃあ、ボクが先に今日、ちぎりを交わしても良いですか?」

 イデリーナは、興味津々の様子を、遂に隠すことを辞めた。

 そして、時間が来た事で会議室から退室し、放課後までを過ごす。

 その晩の事を、バルテマーは一生忘れる事は無いだろうと思う事になるのだが──

 まぁ、それを語るのはまた後のお話である。