模擬剣闘大会

第14話 模擬剣闘大会

 模擬剣闘大会。ソレは、当初の予定通りに進行し、決勝戦でデッドリッグとバルテマーが優勝を競う事になった。

「兄上。──勝たせて頂きます!」

「そう易々と負けるものかよ」

 二人とも、木刀を持って構える。互いに、中段。──皇国流の王道の構えだった。

 ──先に仕掛けるのはデッドリッグ。

「はぁっ!」

 袈裟懸けに振り抜き、躱されたところを斬り上げで反撃を防ぐ。

 逆に、バルテマーも型を試すかの如く、デッドリッグと同様に仕掛けて、デッドリッグがかわす。──剣の達人同士になれば、その戦いは一瞬に閃いて散るが如く終わるものである。

 バルテマーの斬り上げを躱すと共に、デッドリッグはバルテマーの喉元に木刀を当てるべく、動いた──直後に、右に身体を躱す。そこをバルテマーの木刀が空振りした。

 前世の記憶での対戦に於いて、感想戦で唯一、バルテマーにあった勝機を、彼は掴み取りに来た。が、ソレを躱した今、純粋に剣術の腕の差で、バルテマーの勝機は消えた。

 だが、試合を放棄はしない!……が、ソコまで。デッドリッグが、おもむろに木刀をバルテマーの喉元に突き付けたのだった。デッドリッグの勝利を認めないと、付き込む位のつもりで。

「ハハッ。負けた。負けたよ、デッドリッグ。だから、木刀を引いてくれないか?」

 バルテマーは木刀を投げ捨てた。──投了、の意思表示のつもりで。

 デッドリッグも木刀を引いて、一歩下がり、一礼する。──直後、沸き上がる歓声。観客も、これまで試合の緊迫感に押されて黙っていたのが、つつみを崩す水が如く歓声が押し寄せた。

「ハハハッ、当初の予定では、俺が瀕死の怪我を負うんだったか。

 善戦したが、勝ちを拾う迄は及ばなかったな」

「腕前、お見事で御座います」

 デッドリッグが軽く頭を下げる。

「止せ。他の者に聞かれたら、嫌味に思われても仕方ないぞ?」

「正直なところ、兄上から仕掛けられたら、展開の予測は難しかったですが、当初の流れに乗りながらも、『勝機』を逃さぬ動き、ワタクシめも知っていなければ、結果は如何か……」

 バルテマーも、罰の悪そうな顔をする。

「否、『前世の記憶持ち』と云う点では互角。この大会に備えて、剣の腕を磨いたが、お前も同じ位かソレ以上には研鑽を積んでいたと見える。

 あーあ。美女6人は逃すし、主人公としての面目が……否、主人公との自惚うぬぼれが、俺を負けさせたかよ。

 ──来年は、俺の方から仕掛けさせて頂こう!」

 そして、二人は歓声に包まれたまま、握手を交わすのであった。

 ……そして、ヒロイン達に届く速報。

「ああ、優勝されたのですね。見に行きたかった気持ちが半分……でも、出店は明日は休まざるを得ないから、今日の内に稼ぎたいところではありましたし。

 何より、デッドリッグ殿下の恐らく知らぬ情報を、明日、どれだけ驚いていただけるものか、ソチラの方が見物ですわ」

 ローズはそう語り、焼くのに慣れて来た皆にもたこ焼きを焼いて貰いながら、明日のイベントに向けて、裏で準備が着々と整いつつあることの、報告を受け取るのだった。

 未だ、1週間7日ある内の2日目を終えようとしているだけに過ぎない。

 明日の為のプラチナチケットも7人分用意している。……バルテマーに1枚調達を要求されたので、実際には8人分以上を備えていたのだが。

 技術の違いに因る、文化の進化の順序の違い。明日、デッドリッグは非常に驚くに違いあるまい。

 方々手を尽くして、ようやく昨年の学園祭に間に合わせた、未だ余り見た事のある者が少ない、待望している者が多数のイベントへの備え。

 陛下達も、今年はお忍びで見学に来られるとまで噂されている、デッドリッグだけが不自然に知らないと云う、謎のイベント迄、あと1日。

 手違いがあったでは済まない事態にまで及んでいるのだ。

 ただ、上演演目を何にするのかは、彼女達も未だ決めかねている。

 今晩、一番出来の良いと思われる作品を一つ、彼女たちの決選投票で決めるのだ。

 金貨千枚積まれても売らなかった。そこまでの価値のあるものが、明日、体育館で公開されることになる。

 盗まれましたは洒落にならない。故に、分散して保管していたのだ。

 相談の結果、演目は『CosmoTree』に決まった。

 後は、ローズが責任を持って保管しておくのみである。部屋の前に夜警の衛兵まで雇って。

 何しろ、チケットが金貨1枚もするのに、ある程度の必要数を確保した上で販売後、即完売する勢いのあるイベントだ。

 ローズには、デッドリッグの驚いた顔が、楽しみで仕方がなかった。

 夜警の衛兵は、王家から借り受けた信頼の出来る人物。

 彼らに挨拶をして、部屋に施錠して、ローズはその晩を中々寝付けぬ中、眠るのだった。