プレゼントを君に

第13話 プレゼントを君に

 学園祭当日の朝。

「では、ワタクシから順番にデートに行きましょう、デッドリッグ殿下♪」

「ああ……」

 これから起きるであろう事に対して、デッドリッグは非常に憂鬱だった。

「……何ですか?楽しくないのですか?

 ワタクシの、何処が気に入らないの?」

 そう云う問題では無いのだが、デッドリッグは下手に言い訳をするより、本音を語る。

「今日で、6人との付き合いが、公衆の面前で明らかになるかと思えば、な……」

「ああ、何ですの。その程度の覚悟も決まっていらっしゃらないのですか?」

 ローズは酷く詰まらない話題でも口にするような口調でそう言った。

「──そうだよな。今更って話だよな。

 良し!クヨクヨするのは止めて、今日を楽しんでみよう!」

 ようやく、デッドリッグも割り切れたらしかった。

 そうと決まれば、ローズの為に用意していたプレゼントも回収しながら、出店を見て回る。

 やはりと言うべきか否か、バルテマー達の出店にも回る事になった。

「ふーん……油が古くなってから、質が維持出来るものか、見物よね」

 ローズの感想はそんな淡白なもので、そして、ラベンダー畑にて、デッドリッグはローズにプレゼントを贈る事にした。

「ローズ」

 ソレを見た瞬間のローズの驚きは、如何程であっただろうか?

「何ですの?──えっ!?何ですの、コレ!

 え?内側を削って、薔薇の花を模した、水晶の指輪?!」

 だが、一点、彼女は間違っていた。

「ダイヤモンドだよ。魔法で、加工したんだ。

 婚約の証と思って、受け取って欲しい」

 デッドリッグはローズの前に跪いて、その指輪を掲げた。

「えっ?!……男の本気と云うのも大概だとは聞いた事がありますけれど……。──コレは、ワタクシが正室だから?」

「うん。お気に召しましたか?」

 ちょっと考えてからローズは言葉をこう口にした。

「ええ……。ちょっと、驚きでコメントが出て来ない位には」

「では、左手を差し出して下さい」

 デッドリッグはそう言って、化粧箱から指輪を取り出した。

 ローズは真っ直ぐにデッドリッグへと、左手を差し出した。

 その薬指に、デッドリッグは指輪を嵌めて……少々大きいかと思ったら、ピッタリのサイズにまで縮まった。

「正式に正室へと迎える迄は、未だもう少し時間を頂くけど、ソレへの婚約の証として。

 よろしくお願いします」

 結果的に、デッドリッグは6人全員にこのラベンダー畑の中心でプレゼントをしたのだけれど、後日、ラベンダー畑の中心で男性から女性へプレゼントを贈ると、結ばれると言われる。

 舞い上がったローズは、デートの楽しみも、残りの5人全員に味わって貰いたいと思って、すんなりとデッドリッグとたこ焼き屋まで帰った。

 一方、たこ焼き屋の出店では、少々焼きの作業に手間取り、お客さんから「未だ出来ないの?」等と苦情に近い言葉を頂いたりしたのだが。

「貴女たち、何をそんなに手古摺てこずっていらっしゃるの?」

 帰還したローズの出現によって、焼きの役目を交代すると、それはもう見事な串捌きで、クルックルッと綺麗なたこ焼きが焼き上がって行く工程が見るだけでも客を十分に楽しませた。

 当然、焼きのペースは加速し、お客さんが「もうちょっと焼きの工程を見学していたかった」と言われる程に高速で商品と代金を交換し、売り上げが上がって行く。

 コレを以て、ローズは「前世で絶対に関西人だ!」と云う認識が5人のヒロイン達の共通見解となり、それ程に、ローズの手捌きは見事だった。

 当然、一日いっぱいローズにばかり焼かせるのではなく、その見事な腕を見学してコツを何となく掴んだ皆が、ローズに十分な休憩を与えながらも、たこ焼きを焼いて行った。

 だが、やはり押し寄せるお客さんを待たせる訳にはいかず、休憩は十分に取りながらも、焼きの主役はローズだった。

 又、その指に光る指輪を見て、見る者によっては、デッドリッグとローズの関係について様々な憶測おくそくを呼ぶ事になる。

 尚、指輪を贈られるベティーナが、ローズとの差を見て、しばらくの間──そう、ベティーナの番が来るまでの何日間をねていたのは、デッドリッグは気付いていながらに放置した。

 そして、ベティーナとの約束の日に、「アレは正室だからの特権だから」と言われて、自分たちの親同士との爵位の差も判っての事だろう、納得してくれることになるのだが。

 まぁ、後日、それこそ公爵になってから、全員が同等の物を欲しがるだろうなとは、デッドリッグは覚悟していた。

 そして、学園祭2日目。全員が後日、結果を知れば見たがるだろうなと思いながらも、たこ焼き屋を繁盛させる為に、6人全員を出店の方に任せ、デッドリッグは一人動く。

 そう──模擬剣闘大会へと出場する為に。

 そして、一瞬、バルテマーには勝ちを譲るべきかと血迷ったが、父の教えを思い出した。

 ──手加減するな!

 その教えが、デッドリッグの情熱に炎を灯した。

 殺してしまわない程度の手加減は必要だろうが、勝ちを譲る等と言う愚かな手加減はすべきではない。

 勝てるなら勝つ!それこそ、『ヘブンスガール・コレクション』のストーリー展開と、試合の展開そのものは一致しないであろうが、デッドリッグ優勝と云う結果。

 それを勝ち取るべく、デッドリッグは闘志を目覚めさせるのだった。