第57話 世代交代
夕姫は、直継さんを口説き落とし、結婚と云う過程に辿り着いた。
二人は、近親者だけの慎ましい結婚式を挙げた。
因みに、日本流の和装で三々九度を上げるものを。
ウェディングドレスは、ソレはソレで写真だけ撮るつもりだそう。ソコは、昼姫を真似たらしい。
それにしても、夕姫は大丈夫なのかと昼姫は不安になる。織田 直継さんがスポンサー料のみで生計を立てられない以上、生活費は夕姫頼りとなる。
まぁ、その辺は老師・岡本が道場の方に通っていれば自然と世界ランキングも上がり、スポンサー料も増えるだろうとの予想をしている。
そして遂に、『プリさん』が『Love』こと愛に世界ランキング1位の座を譲り渡した。
「やったー、いっちばーん!」
愛は無邪気に喜んでいるが、昼姫譲りの高速操作と、『プリさん』による助言が後押しした事は間違いない。
この頃では、『Zero』と『Bel』の順位も馬鹿にならないし、放っておいても『King』の順位は下がってきているし、『Venues』さんも本気でポイント稼ぎ&高順位確保に走っている。
そして、老師・岡本は更にプレイヤーの立場から指導者の立場への移行が強くなっていった。
指導相手は、勿論、『Love』『Zero』『Bel』の三名を重点としてだ。
「私も、世界ランキング1位になってみたかったな……」
昼姫はそう呟くが、若さから来る強さには中々勝てない。
ソレは歳を重ねる毎に大きな差となっていく事は明らかだった。
ならば、老獪な戦術を、と考えるも、昼姫は高速操作に頼りがちで、戦術・戦略を練っての攻略は苦手だった。
その事を、卯月さんと老師・岡本さんに相談すると。
「うーん、難しいね。
そもそもが、数値処理の面白さが判らない人には面白味が全く伝わらないゲームだから、あの歳の子供が嵌まり込むのが、既に異常なんだよ」
「そうじゃな。既に、勝とうと思って勝てるレベルでは無くなって来ておる。
ただ只管に高得点を狙えば、勝ち目も見えて来るのではないかのぅ……」
それはそれなりにやっています!と、言いかけた昼姫は、一つの仮説に辿り着いた。
「もしかして、トレード倍率以前に、トレード規模が小さ過ぎる……?」
「ああ、それでは当然、勝てんよ」
昼姫は思い返す。トレード倍率ばかり重視し過ぎていて、トレード倍率が良さげなものは、小規模でもトレードしていた。
それではダメなのよ。勝ち点の絶対値が稼げないから。
昼姫は、一度考え込んで、「うん」と何らかの結論に辿り着いたようだ。
「老師、卯月さん。私、試合って来ます!」
「行ってらっしゃい」
老師・岡本は黙って頷く。
次の試合。
昼姫は美味しいトレードを見付けては、そのトレードを限界最大規模で申し込み、3割強の割合で応じて貰えた。
──十分だった。
昼姫はその試合、見事1位を勝ち取った。
「かあさん、おめでとう」
愛もそう言う。卯月さんも。
「おめでとう、昼姫さん」
「ありがとうございます!」
そして老師・岡本も。
「良くやった!」
と、手放しに褒める。
「やった、私にも勝てるんだ!」
「むしろ、あの高速操作で、今まで一位を取った経験が無かった事が不思議だよ」
「私、今まで、トレード規模の吊り上げを行っていなかったんです!
それを改善しただけで、こんなにも……」
それからは、愛と昼姫の競い合いだった。
他の者が入り込もうとも、二人の超絶高速操作には敵わなかった。
そして、一ヵ月が経とうとした頃には。
「やった!世界ランキング1位がようやく見えて来た!」
あとは、僅差の勝負。時間の問題に思われた。
それは、一週間、勝率7割をキープした結果だった。
「やった……!世界ランキング1位!」
ようやく、昼姫はその目標を達成した。
「おめでとう、昼姫さん」
「ありがとうございます、卯月さん」
最早、昼姫はこのゲームに思い残した事が無かった。
それからは、昼姫はこのゲームをスポンサー料を稼ぐ為にのみプレイし、無理して迄1位を狙わなくなった。
但し、化粧品会社からのスポンサー料が大きかったので、基礎化粧品による肌ケアには抜かりが無かった。
結果、昼姫の肌は美しくキープされ、動画の配信は良いCMとなった。
家事は卯月の母任せとなるが、それ相応の収入を得ている昼姫に対して、卯月母からの文句は無かった。
だが、昼姫はずっとスポンサー料で稼げるなんて甘い考えは無かったので、家事も少しずつ負担するようにはなって来た。
愛の受けるスポンサー料も馬鹿にならないだけの金額となり、それらは全て愛の名義の口座に貯金され、管理は昼姫が行った。
そして、愛のお小遣いはその貯金の中から少しずつ手渡され、愛は貯金が偉い事になっている事には、暫く気付かないのであった。
愛も動画の配信は行っているが、その世界ランキング1位の腕前は、「そんな高速操作、手が追い付かねぇよ!」として、世界ランキング1位の壁の高さを知らしめるのであった。
まぁ、中にはそんな愛の高速操作を『見切る』事は出来るプレイヤーも居て、トレードの参考にされたりはした。
ただ、老師・岡本道場と云うプレイ環境については詳細は語られる事は無く、団体でのプレイ環境の優位性は、暫く知られる事は無かった。
そもそもが、こんなゲームを遊ぶのはヲタッキーな人たちであり、群れる事に慣れていなく、団体を組むのも難しいのだ。
老師・岡本道場は、岡本の人脈を探って適性のあった人たちが集まって出来たに過ぎず、日本国内では例外的な環境だった。
それでも、社会主義国では個の意思は関係無しに、日本に対して要求を通す為に、団体でこのゲームで挑んでいたが故に、老師・岡本道場に次ぐ勢力となりつつあった。
ただ、一箇所に集まっての口頭での偉業達成の宣言をする事の優位性が知られるには時間が掛かり、中々老師・岡本道場には及ばない。
しかも、老師・岡本道場では世代交代も起こりつつあった。
『Zero』と『Bel』も、『Love』には追い付けず、水をあけられていたが、それも大して大きい差では無い。しかも、両親からの指導も入るのだ。
加えて言うと、『プリさん』も『Kichiku』も『Victory』も、大人げないプレイングをして、『Love』ですらその順位を脅かされる事もままあった。
ただ、『Love』『Zero』『Bel』にしてみれば、これ程判り易い指導対局も無かった。
勿論、『プリさん』も『Kichiku』も『Victory』も、本気には本気なのだ。ただ、産まれてから当然にあったゲームに対して、偉業達成の順番は判り易い指導対局であった。
卯月さんもスポンサー料確保の為に手を抜かなかったし、ただ、昼姫が少し遠慮がちなプレイングをするようになった。──子供三人に対する優遇トレードをしたのだ。
勿論、優遇トレード得点を稼ぐ意味合いもあったが、それでも、他の本気のプレイヤーと比べると、ベスト5に入る機会も中々無かった。
卯月さんから、「最近、伸び悩んでいない?」と問われると、本気を出して1位をもぎ取るのだが、もぎ取れてしまうが故に、そこまでの本気は、中々出さなくなった。
兎も角、昼姫は『TatS』と云うゲームに対して、ある一定の区切りが出来た。
これにて、昼姫は『引退』と云う可能性を考えつつあった。
そして、昼姫は老師・岡本に相談する。
「実は、引退を考えているのですが──」