おめでた

第55話 おめでた

 一応、卯月さんと昼姫の結婚が確定した事で、道場にも報告を、となった。

 特にそれに対して、大きな反応は無く、「おめでとう」との祝福の言葉を頂戴した。

 道場では、その日は挨拶に留め、婚姻届を提出に二人は向かう。

 そして、婚姻届を提出すると、藤沢邸で、空き部屋を一つ掃除し、そこを昼姫の部屋とした。

 結婚式については、主に昼姫の抱えている障がいについての偏見を不安視し、お互いに踏み切れなかった。

 でも、卯月さんの「昼姫さんのウェディングドレス姿は見たかったなぁ」と云う言葉から、記念写真だけ撮る事になった。

 貸衣装で記念写真を撮り、それから、老師・岡本道場に復帰した。

 3日ほど休んでしまったし、世界ランキングも落ちているんだろうなぁ、と思ったら、卯月17位、昼姫28位であった。

 因みに、昼姫は卯月さんから誘われて、卯月さんの『本気モード』のゲーム環境を見て、「最近、モニター2台追加したんだ」と云う卯月さんの6ウィンドウ環境に驚く。

 試しに、一度だけプレイングを見せて貰ったら、『プリさん』の不在時とは言え、割と楽勝に見える展開で1位を勝ち取っていた。

「コレでも、『プリさん』の得点記録には及ばないんだ」

 卯月さんがそう言って世界大会の得点ランキングを表示すると、1位~10位まで、全て『プリさん』の得点記録であった。

 この時の卯月さんの得点は、『プリさん』の10位の記録得点の8割程度でしかなかった。

 もっと詳細に記録を見て行くと、100位以内に『TAO』と『Fujiko』の名前が数件見られた。

 異常な事に、得点記録ランキング上位100位以内は、『プリさん』こと『Primula』と、『TAO』、『Fujiko』さんが占めていた。

 『Kichiku』と『Victory』の名すら、一件も見られなかった。

 それについて卯月さんは、「まぁ、最高得点のランキングだからね」との言葉で言い切ってしまった。

 しかも、トレード倍率調整の時以降の記録だから、『常勝無敗の7年』の際の記録が無く、卯月さんはこう予測した。

「恐らく、岡本さんはコレに近いプレイ環境を持っている」

 ──と。

 まさか……とは昼姫も思ったみたいだけれど、得点記録ランキングを見ると、恐らくそうであろうことの予想が付いた。

 卯月さんは、昼姫に「サブアカウントを作って、試しにプレイしてみる?」と誘って来た。

 昼姫は、少し躊躇った後、「お願いします!」と申し出た。

 卯月さんはメイン画面以外のウィンドウの見方を教え、昼姫がプレイングを始めてみる。

 サブウィンドウは、対戦相手のデータを集約したものだった。

 昼姫は、余りの情報過多と、マウスと云う慣れない操作環境で持ち前の高速操作を発揮できず、それでも、32位に入り込んだ。

 昼姫は徐々に家事をしたり卯月さんやその両親と共に食事を摂る事によって、藤沢家にも馴染んでいった。

 そして、週に一度、卯月さんと共に老師・岡本道場に通う。

 又、卯月さんからプレイ環境を整えようか?とのお誘いに、乗っかる事にした。

 そうして、結婚から半年ほど経った頃に、昼姫は老師・岡本道場で急に体調を崩した。

「大丈夫?」

 卯月さんはそう心配して来てくれるものの、昼姫は「大丈夫」と答えた後に、こう続けた。

「多分、おめでただと思うから」

 その言葉に、卯月さんは慌てて、「病院に行こう!」と言い出し、昼姫を連れて道場に通うようになってから使い出した車を走らせ、昼姫を産婦人科の病院に連れて行った。

「間違いなく、おめでたですよ」

 その言葉に、卯月さんは歓喜した。

「出産予定日は、7月7日前後と思われます」

 そうであるのならば、願わくば7月7日に産まれて来て欲しいものだ。

 昼姫と卯月さんはそう思い、大事を取って、出産までは道場に通わない事と、昼姫の家事の負担を減らし、ただ、収入を得る為に『TatS』そのものは藤沢邸ですることにした。

 無理は禁物。

 そう、二人は卯月さんの両親から教わる。

 昼姫には、悪阻は余りにも苦しかった。

 でも、卯月さんの子を産む。

 その覚悟で、昼姫は耐えた。

 卯月さんが、苦しそうな昼姫を見て、「何か欲しいものは?」とか、「家事も無理しなくていいんだよ?」と声を掛ける。そのツラさを解ってやれぬ自身が情けなく思っているみたい。

 そして、遂に出産を控えて昼姫は入院となった。

 卯月さんは、ほぼ毎日、昼姫の様子を窺いに来た。

 7月6日の夜中。

 昼姫の陣痛が始まった。

 夜中にも関わらず、卯月さんに連絡が行って、すぐに駆け付けて来た。

「明日の昼前になるかも知れませんね」

 医師の説明に、卯月さんは昼姫の手を握り、励ましの言葉を告げる。

 7月7日早朝。遂に、昼姫が出産した!

「ありがとう!頑張ったね!」

 卯月さんがまず述べたのは、感謝の言葉だった。

 事前に判っていたとは言え、産まれたのは女の子だ。

「「名前は『愛』にしましょう(しようか)」」

 名前については、二人の意見は一致していた。

 そうして、二人は愛を愛情深く育てるでのあった。