第52話 共存共栄のゲーム
「『プリさん』、試合いましょう!」
昼姫の『プリさん』へのその宣告は、宣戦布告に近かった。
始まった、『TatS』の世界大会。
コレに負けたら、日本は優勝国の言う事に、ある程度従わなければならない。
どの程度、従うかは政治家の判断するお仕事だが、チーム・老師・岡本道場の責任は大きい。
予選大会が行われた4時間後。日本時間で18時に、試合は開始される。
序盤から、昼姫の動きは早かった。次々と偉業の達成を宣告する。
「──『産業革命』の偉業、達成しました!」
昼姫の、その宣告が切っ掛けだった。
「マズいわね……」
『プリさん』が、そう呟いた。ソコから、『産業革命』の達成までの約1分間は、『プリさん』の動きは変わらなかった。
『産業革命』迄の昼姫の偉業達成迄の早さは、単純に昼姫の操作速度の速さに依るものだ。
だが、『プリさん』は伊達に『世界ランキング1位』に立っていた訳では無かった。
「『コンピューター』の作成の偉業を達成!」
「──!」
ソレは、『プリさん』が説明した偉業の達成の順番と違っていた。それ故に、昼姫は『プリさん』にその偉業の達成の早さで1歩譲らざるを得なかった。
そもそも、『プリさん』は『バランス型惑星』で、『海洋型惑星』と云う昼姫の得意惑星との違いがある。そして、恐らく『プリさん』は『バランス型惑星』を得意としている。
当然、『偉業の達成の順番』を変更されたら、昼姫は幾つか偉業の達成の優先度を譲らなければならない。
そして、『プリさん』は状況に応じて『偉業の達成の順番』を変更する事を、恐らく得意としている。
それでも、昼姫は諦めなかった。
「『レインボーパール』の作成の偉業を達成しました!」
昼姫が対抗して、『プリさん』の説明から外れたパターンの偉業を成し遂げた。
「昼姫姉さん、それは無いわぁ……」
『レインボーパール』の作成のノウハウを握っていた夕姫にすれば、ソレは折角発見した偉業の権利を掻っ攫われた事を意味する。
更に、昼姫は続き──
「『レインボージュエル』の作成の偉業を達成しました!」
ノウハウを握っていれば、コレも昼姫からすれば然程難しくない。
だが。ソコまでだった。
トレードは、当然している。そして、『レインボーローズ』のゼロからの育成のノウハウは、卯月さんが握っているから、当然、卯月さんがその偉業を取る。
他に、『プリさん』より先に達成出来そうな偉業は、既出のものでは殆ど無かったし、僅かに存在している残る偉業の達成のノウハウは、昼姫は知らない。
特に、『コンピューター』の作成の偉業は、先に達成した『プリさん』にそれ以後の『コンピューター』に因る偉業の達成では敵わない。
そして、未来に確実に存在していながら、今現在に現実世界で達成していない、『シンギュラリティ』の達成は、事実上、現在に於いては不可能だ。
実際に『シンギュラリティ』が起きたのならば、その偉業も達成可能となるだろうが、『シンギュラリティ』が起きた時に何が起こるのかは、想像不可能である。
その為、『TatS』では『シンギュラリティ』は今現在、達成不可能な偉業として、未来に可能性を託している。
だが、昼姫は十分健闘した。
結果が出てみれば、以下の通りだ。
1位、『プリさん』。
2位、『Morning』こと昼姫。
3位、『Fujiko』さんこと卯月さん。
4位、『Victory』さん。
5位にはアメリカのプレイヤーが入っていて、『Venues』さんは7位。『King』が8位だ。ソコは『Venues』さんが抑え込んだのだろう。
「……悔しい」
結果が出て、昼姫は呟いた。
「伊達に世界ランキング1位じゃないのよ?
世界ランキング2位になってから、悔しがりなさい。
それにしても、このゲームが共存共栄のゲームである事は、未だ世界では理解されていないのね」
「──共存共栄……。成る程!そう云うことなんですね!」
昼姫の理解が、一気に進んだ。
操作スピードでは負けていない。産業革命までの早さも負けていない。ならば、負けている要素が何なのか……。
ようやく、昼姫にも理解が進んだのでしょうね。