第51話 レインボージュエル
日本代表選抜戦。
チーム・老師・岡本道場の皆は、道場で対戦に立ち向かう事にした。
時刻は、昼の2時から。30分一本勝負。
「老師、試合って来ます!」
昼姫がそう宣言したのは、本気を出す気持ちの表れだったでしょう。
昼姫は序盤、人造宝石の加工に力を入れた。
人造であるが故、自星での勝ち点は低い。
だが、一度他の惑星に輸出されると、ソレはとんでもない価値を持つ、巨大宝石として扱われるが故、勝ち点が非常に高かった。
昼姫が対価として求めたのは、主にプラチナを中心とする、金銀の類だった。
ソレを以て、人造宝石をアクセサリーとして、更に価値を高めた。
更に、昼姫はその過程で、『レインボージュエル』と云う宝石の化け物を作成する偉業を成し遂げ、高順位はほぼ確定的だった。
一方で、卯月さんは『レインボーローズ』の品種改良を当たり前に行って、昼姫にプレゼントに近い形のトレードを行った。当然、卯月さんにも利益が出る。
尚、昼姫の惑星に於いて、『レインボーローズ』は非常に高い勝ち点を持ち、そして、『レインボーローズ』は『F1種』であるから、その増殖は非常に難しい。
だと云うのに、昼姫は『F1種』のクローンの作成によって、『レインボーローズ』の増産に、終盤に近い時間の殆どを費やした。
結果、『レインボーローズ』による勝ち点の低下と云う現象を起こすが、ソレをトレードする事によって利益を上げた。
今回に限っては、卯月さんより昼姫の方が勝ち点が上かに思われた。
だけど、昼姫は一つ、失策をしていた。
卯月さんに対する、『レインボージュエル』の譲り過ぎだ。
結果、卯月さんは『レインボージュエルの王冠』と云う装飾品を作って、非常に高い勝ち点を得た。
当然、ソレをトレードすれば更なる利益が得られる。
卯月さんは、口頭で昼姫の許可を得て、その『レインボージュエルの王冠』を夕姫とトレードすると云う暴挙に出た。
当然、双方にとって高い利益を得られるトレードが行われた。因みに、『レインボージュエルの王冠』とトレードした夕姫が差し出した品が、『レインボーパール』だった。
恐らく、卯月さんは飛び上がらんがばかりに驚いただろう。何しろ、誰にも知られずに偉業のトロフィーを夕姫は得ていたのだから。
そう、道場内では偉業の達成は、原則、口頭での報告を必要とする。夕姫はソレを卯月さんから知らされて、初めて知った。道場の皆は当然のようにやっていた事を、夕姫は思い返して認識する。
元々、真珠は美しい。光沢で、複数の色を帯びているようにも見える。
だけど、明らかに七色に輝く真珠と云うのは、恐らく夕姫が初めて目にした筈だ。
卯月さんは、その『レインボーパール』を加工して、昼姫とトレードした。
既出の偉業の達成は、殆どが『プリさん』に持っていかれる事は、道場の皆は承知している事だ。故に、『プリさん』は最強たり得る。
だけど、『レインボージュエル』と『レインボーパール』に関しては、昼姫と夕姫が今回初めて成し遂げた偉業だし、『レインボーローズ』への品種改良には、卯月さんが優位だ。
これは、いい勝負になる!──と思った結果が、以下の通りだ。
1位、『プリさん』、偉業の達成数の多さが勝因だ。
2位、『Fujiko』さんこと卯月さん。昼姫と夕姫とのトレードが、余りに美味し過ぎた。
3位、それでも、やはり『Victory』さん。『何故、この順位迄勝てるのか』と問われたら、きっと「それは俺が『Victory』だからだ!」と言う事だろう。
4位、辛うじて昼姫。終盤に『レインボーローズ』の増産に専念し過ぎたのが敗因か。
5位、『Venues』さん!
この結果に、『Kichiku』さんは「なっ!」と絶句し、『Venues』さんは「ライバルが居なかったから、『Kichiku』をターゲットにした結果よ」等と嘯く。
一応、『Kichiku』さんは6位に居る。点数を見てみると、『Venues』さんとは僅差だ。
「この結果が、世界大会でも通用すれば良いわね」
『プリさん』はそう言うものの、そんなに簡単な事では無い。
ただ、道場で上位5名がリアルタイムで口頭でのやり取りを出来るメリットは、先ほどまで触れて来なかったが、実は大きい。
特に偉業に関しては、口頭で達成の報告を齎す事で、他のその偉業を狙っていたプレイヤーが、必要であればそのまま狙い進め、不要であれば即座に切り替えられる。
それで言うと、『プリさん』の偉業の達成は、異常な程早い。
恐らく、偉業達成迄のルーティンが既に組まれている。
それに気付いた『Victory』が、ダメ元でその情報の開示を要求してみたところ、『プリさん』の返答は。
「いいわよ」
と云うものであった。
皆が期待してメモを取る用意をして聞き出すと、本当にそんな事が出来るのか?と思う位、緻密なスケジュールだった。
恐らく、『プリさん』の「いいわよ」の返答には、「どうせ真似できないもの」と続いていたのかも知れなかった。
だけど、昼姫から見れば、その情報の開示は、『悪手』としか思えなかった。
スケジュール管理の緻密さが『悪手』であった訳では無い。
ただ、その情報を昼姫にまで開示してしまった事が、『プリさん』にとって『悪手』であったとしか、昼姫には思えない。
その事実を確かめる方法は、一つ。
──昼姫が、そのスケジュールを実戦で試すのみだった。
奇しくも、ソレは各国5名までのアカウント権売買禁止の世界大会で、と云う事になる。
昼姫は、勝利を確信していた。