夕姫覚醒

第48話 夕姫覚醒

 それに最初に気付いたのは、やはり『Venues』さんだった。

「『King』、私たちを避けて、世界ランキングを稼ぎつつあるわね?」

 それに対する、『プリさん』の反応は冷めたものだった。

「でも、絶対得点で、世界ランキングをそんなには上げられていないでしょう?」

「世界ランキングでは、『プリさん』、俺、『Victory』、『Fujiko』、『Morning』、『Venues』、『TAO』の順で、何とかベスト7入りはさせていないですねぇ。

 はっきり言えば、8位は取られているんですけど」

「『Twilight』さんに、急速に伸びて貰う必要があるわね」

 『プリさん』の視線が、夕姫を貫いた。

「特訓に耐える覚悟はある?夕姫さん」

「……あるか無いかで言われたら、あります!

 いい加減、昼姫姉ちゃんに勝ちたいですし!」

「良い覚悟ね。そう、その位の覚悟が必要なのよ」

 そう言って、『プリさん』は次のゲームを放棄し、夕姫のプレンイングを見守り指導する事に専念する事にしたようだ。

「よっしゃ!1位取るチャンス!

 久しぶりだな……今回は逃さねぇぞ!」

「『Kichiku』、俺と云う存在を忘れてはいないか?

 そう簡単に1位の座は譲らねぇぞ!」

 『Kichiku』と『Victory』の発言に、昼姫が卯月さんに耳打ちした。

「(卯月さん、あのお二人、出し抜けませんか?)」

「(協力してくれるなら!)」

「(了解です。この際ですから、卯月さんの実力を指し示してあげて下さい!)」

「(そうか、今回はそれ程にチャンスなんだね?)」

 昼姫が頷くと、二人の会話はそこで終わった。

 ゲームが立ち上がり、『チーム老師・岡本道場』の参加者は、『Kichiku』、『Victory』、『Venues』、『Morning』、『Twilight』の五人だった。

 老師・岡本は『プリさん』による指導の見守りだ。

 そして、『King』の参加により、『Venues』も気合が入り、絶対にベスト5はこの五人で確保する!と云う気合が、五人全員に入った。

 『Kichiku』と『Victory』は互いをライバル視しており、絶対に一位になる!と覚悟したのが、失手を招いた。

 『Venues』、『Morning』、『Fujiko』への優遇トレード。ソレをしなければ、失点となって1位を逃すからであるが、ソレラのトレードを昼姫と卯月は積極的に受けた。

 『Venues』は、比較的消極的であった。

 結果、そのゲームでの順位は、1位から『Fujiko』、『Morning』、『Victory』、『Kichiku』、そして奇跡的にも『Twilight』が5位に入り、『Venues』さんが7位、『King』は13位だった。

「「はぁぁぁぁああああ?」」

 『Kichiku』と『Victory』は不満の声を漏らすが、昼姫と卯月の協力体制は強かった。

 単に、それだけである。『Kichiku』と『Victory』が夕姫と『Venues』さんとのトレード条件より、昼姫と卯月さんのトレード条件の方が『良い』と判断して、優遇し過ぎた結果である。

 或いは、『プリさん』の指導が的確であったが故に、夕姫と『Venues』さんとの着順の差が付いたと言える。

「良し!『Twilight』さんのプレイングの甘さは、大分減ったわ。

 甘いプレイングを悪いとは言わないけれど、少しカラいプレイングを仕込んだから、ゲームも刺激的で楽しくなったでしょう?」

「はい。『全ての数字には意味がある』。ソレを、少しばかり甘く考えていました。

 でも……。私は、もう少し『甘いプレイング』の可能性を見出したいです。

 勝手な事を言ってゴメンナサイ。

 でも、絶対に『甘いプレイング』にも意味があると思うんです。

 その意味を見出す迄は、私は『甘いプレイング』に力を注ぎたいです!」

「別に構わないわ。

 それでも、『Morning』さんのような、超高速操作の才の片鱗は見えたし。

 いずれ、覚醒するものだと信じているわ。

 ──で?トップは『Fujiko』さんに譲った上、『Morning』さんにも水をあけられているの?

 『Kichiku』、『Victory』、まだまだね。

 で、『Venues』はまた『King』を沈める為に順位が下がったのね。

 ……『King』って、『Venues』にライバル視されているの、気付いているのかしら?」

「出来るだけ気付かれないように立ち回っていますけれど、私のトレード内容をチェックされたらバレますね」

 しかし、ココで一つの疑問点が生じる。

「……何で『King』って、私たちが参加している回のゲームにばかり参加するのかしら?一回だけ避けたのを確認したけれども。

 私たちと別の回に回れば、好成績は取れる筈でしょう?」

「多分、ですけど……」

 『Venues』は、ココで一つの仮説を立てた。

「世界ランキング高順位のプレイヤーとの対戦を希望しているのではないでしょうか?」

「あー、あったわねぇ、そんな選択肢」

 コレは、元々は初心者救済の為のシステムだった。

 高ランキングプレイヤー相手には敵わない。

 だけど、低ランクプレイヤー同士で対戦すれば、ある程度は勝ち目が出て来る。

 但し、その際には世界ランキングへの影響は低かった。

 つまり、『King』は世界ランキングで上位に入る為に、高ランキングプレイヤーとの対戦を『積極的に』と設定しているものと思われる。

 それが、『プリさん』と『Venues』さんの分析らしかった。

 二人がそんな話をしている間、昼姫と卯月さんとは感想戦を行っていた。

 こう云う、地道な努力が結果を産むゲームよねぇ……。

 でも、『Kichiku』さんと『Victory』さんはチラッチラッと二人の様子を覗って、うらめしそうにしている。

 まぁ、傍から見たら、昼姫と卯月さんはイチャついているように見えるものね!

 夕姫は、まぁ、未だ若過ぎて、『Kichiku』さんや『Victory』さんの歳から考えると、付き合うのは『ロリコン』の汚名を被らなくちゃならないしね!

 でも、その位の覚悟も無しに、女の子と付き合えるだなんて思わない事ね!

 そもそもが、会話が足りないのよ!

 折角のゲームヲタク同士、話題は色々ある筈なんだから。

 ──でも、この話を『Kichiku』さんに訊かせたら、夕姫を狙いかねないかしら?

 ただでさえ、『Kichiku(鬼畜)』と云うハンドルネームを名乗っているのだもの。

 これはココだけの話ね。ね?