第47話 レインボーベリー
その日、『TatS』は突然落ちた。
老師・岡本道場では、その原因の追究を急いだ。
「あー、成る程だわ」
『プリさん』がそう言い、原因を『一箇星』に資源を集め過ぎた為と説明した。
つまり、最低利率と最大利率とのトレードを『一箇星』に集中し、勝利点をその『一箇星』に稼がせる行為を、誰かがしたのだ。
「このゲームでは、『一極集中』を許していない。
そして、一見、その『一極集中』は勝ち点を稼ぎ易いと思われがちなのよ。
現実的には、加工技術を鍛え上げて、加工貿易に依るトレードの方が、総ポイントでは勝ち易い。
そんな事を知らずにプレイしていた、複数のプレイヤーと言ったら……犯人は明らかよね?」
「社会主義国に塩、の案件かしら?」
「本当に塩を輸出すればいいのにね!断られるだろうけれど!」
今日は『プリさん』と『Venues』さんとの間で会話が盛り上がりそうな様子だった。
「社会が独裁者の言いなりになったから、『社会が完成した』とか思っているんでしょうけれど、だからこそ『社会は完成していない』と云う事実には目を向けようともしないのね」
「今周期の世界は、割と希望的なのに!なのに、丙午に向けて、戦争を企んでいる馬鹿の鹿が絶望的に悪いのよ!
今周期で丙午を乗り越えられなかったら、またゼロからやり直しよ?
そして、多分、あと七周はやり直しになる……。
『TatS』でも、現実に『シンギュラリティ』が起きていないから、『シンギュラリティ』と云う偉業だけは、どれだけ頑張っても出来なかった!
そして『Fujiko』さん。また、新しい偉業を達成したらしいわね?」
「え、ええ……」
急に『プリさん』から話を振られて、卯月さんは戸惑い気味だ。
「確かに、七色のブルーベリーが生る『レインボーベリー』が完成して、その株を昼姫さんに贈りましたけれど……」
「何でそんなに新しい偉業を見付けられるの?!
と云うか、『偉業の初発見』だけでも、相当な勝ち点を稼いでいるでしょう!?」
「ええ。まあ、確かに『全く新しい偉業の初発見』は、勝ち点が美味しいので狙って獲得していますが……」
「しかも、『贈っている』のよね。
それ、やり過ぎたら失点になるから、注意してね!
と云うか、『プレゼント』機能も使って勝ち点の一極集中を行ったから、ゲームそのものが落とされたのよね。
今後は、ソレに対して大きな失点が設けられるでしょうけれど……」
「私達は、利幅の大きいトレードを行った後は、チーム内に於いて、相手に利幅の良いトレードを行っているから、チームとして頂点に立ち易いのよね」
「全く同じことをもっと大規模でやられたら勝てなくなるかも知れないけれど、未だ操作テクで負ける気は無いわ!
そもそもが、一極集中しても、そんなに勝利点は稼げたのかしら?
ベスト5には切り込まれていないわよねぇ?」
「3位に入られたらしいわ、『King』に。
チェックが甘かったわ、ゴメンナサイ」
「『Venues』が気にする事では無いわ。
オートトレード機能を使わなかっただけでしょう?アチラさんが」
「ええ。私の対『King』対策は、オートトレードを潰す事にあるものですから……」
「『Kichiku』!貴方、『King』に抜かれたのよ?!悔しくないの?」
「当然悔しいけれども……反則スレスレの手を使われたら、流石に厳しいから責めないでくれや」
「ゲームは今、メンテナンス中で恐らく『一極集中』に対する厳しい失点が課せられる事態になりそうだけれども……。
『Fujiko』さん、貴方、3位を狙って頂ける?
『Kichiku』は一回抜かれたから、次が有りかねない。
安心して3位を確保できる人材が必要なのよ!
『Fujiko』さん。正直に言って。本気を出せば、貴方なら狙えるでしょう?」
「ええまぁ……。『全く新しい偉業』とかを諦めれば、もっと得点は稼げますが……。
──ん!甘さを切り捨てれば、狙える可能性が見えました!
でも、2位は厳しいですよ?」
「『Victory』、2位は任せられるわよね?」
「んー……最近の『Kichiku』の成績を考えると、楽では無いですが可能ですね。
ただ、『Kichiku』が本気出したら、正直、厳しいですね」
『プリさん』の視線が、『Kichiku』を貫いた。
「何それ?
『Kichiku』、まさか抜いて回していないわよね?」
ソレに対し、『Kichiku』は「んー」と唸りながらこう言った。
「正直、最近楽勝だったから、さっきは少し抜いていましたね。
でも、点数見て貰えれば判ると思うんですけど、順位が4位になった時点から猛チャージ掛けて、追い抜く寸前だったんですよ?」
『プリさん』は、メンテナンス中でも出来る昨今のゲームの展開を眺めてみた。
「確かに、点差が僅か2桁ね。有利なトレード一発で逆転圏内ではあるけれども──」
「俺に抜かれて本気出していない時点で、さっきの『Kichiku』は甘ぇよ!」
『Victory』は『Kichiku』に厳しい事を言う。
「30分、全力で頑張るのは疲れるんだよ。
それも、一日に7ゲーム位はするんだから」
「別に、私たちの参加するゲームに毎回参加しなくても良いわよ?
他のプレイヤーだって、私たちが参加していないゲームでは、トップ5に入れたりしているんだから」
それを聞いたアタシは、参加するゲームを変えれば、トップ5に入れるかも!──と、一瞬思ったのだけれども。
「嫌だよ。参加するゲームを変えたら、この『チーム老師・岡本道場』の優位性が失われるから」
あ、それはそうよねぇ……。
孤立してゲームに挑むより、チームで挑んだ方が有利だものねぇ、このゲーム。
「現に、腹立たしい事に、私たちの参加していないゲームで、『King』のベスト5入りを許しているものねぇ……」
この、『Venues』さんの『King』への対抗心は、何処から生じるものなのだろう?
まぁ、そんな事は割とどうでもいい事だけれど、昼姫は未だしばらく、『チーム老師・岡本道場』のお世話になるのが良さそうねぇ。
等と、アタシは思ったりしたのでした。