対『King』

第37話 対『King』

 昼姫は、琥珀糖にハマりにハマった。

 週一で買い出しに行き、ほぼ毎日食べている。

 だけど、一日に食べる量が少ないから、ダイエットに支障が出るレベルでは無い。

 むしろ、そのカロリーの分を頑張って運動し、体型を維持している程だ。

「あのお店、美味しいお菓子が多過ぎる……」

 でも、今日はそのお店は定休日だ。買いに行きたくても買えない……。

 昼姫は躊躇しながらも、結局、地元の名物のアンパンを食べてしまった。

「歩かないと……」

 『TatS』には、最近、新しい機能が増えた。

 スマホ版に限るが、散歩補助アプリである。

 簡単に言えば万歩計だ。

 一万歩歩く毎に、強制的に希望した惑星のプレイング権が貰えると云うものだ。

 そして、ある地点のポイント近くを通った際に、定められた惑星型の、優先的希望権が与えられる。

 そんなポイントが地上の至る所に設定されているのだ。

 昼姫は、「コレは良い」と思って始めた。

 結果、衰えていた肉体に徐々に体力が戻りつつあった。

 老師・岡本道場に通ってのプレイングは、ずっと疲労と云うハンディを背負っての勝負となっていた。

 だが、その昼姫の努力が開花した。

 そんな折、『Venues』さんこと松岡 美鶴さんから、こんな提案を持ち掛けられた。

「ねぇ。協力して、王 李明を追い落とさない?」

「……え?」

 昼姫にしてみれば、『寝耳に水』の話だった。

 詳細を訊いてから判断すればいいかなぁ、と思っていた矢先に、昼姫はこんなことを言い出した。

「他人を蹴落として上に立ちたくはありません!

 自力で頑張って、上を目指します!」

「ちょっと待って!王 李明──『King』に優遇しないだけで良いの。

 その程度なら、出来るでしょう!?」

 昼姫はちょっと迷った後にこう言った。

「まぁ、その程度でしたら、協力出来ないでも無いですけれど」

 結局はそんな言質を取られた上に、美鶴さんは卯月と夕姫にも同様の話をして、同様の言質を取っていた。

 昼姫は最近の対戦で成績が良いから、「王 李明に負けなければいいのでしょう?」と強気な態度に出て、事実、散歩を始めて以来の好調は続き、『King』の追随を許さなかった。

 卯月さんは「いやはや、スマホでのプレイングでは対抗し切れなくなって来たなぁ」と言いタブレット端末の購入を検討し。

 夕姫は、「くっそー、いつの間にこんなに差を明けられたのよ!」と愚痴をこぼす。

 昼姫としては、「そんな事を言われてもねぇ」と云う話だし、そもそも、昼姫は未だ世界ランキングでトップ10に入った時よりも入らなかった時の方が多いのだ。

 即ち、卯月さんはタブレット端末を購入すればすぐに昼姫を追い抜くだろうし、夕姫は未だそこまでの成績を伴うだけのプレイングが出来ていなかった。

「そう云えば最近、『Mr.Puu』を名乗るドイツ人が時々世界ランキングトップ10にギリギリだけど入って来るようになったねぇ」

 老師・岡本がそんな話題を切り出せば、『Kichiku』と『Victory』はこんな事を言う。

「『プーさん』の運命は『爆死』だと云うのに、よくそんな名を名乗るものだよ」

「全くだ。

 吊るし上げて、脱落させようか!」

 等と酷い言い振りで、罵詈雑言を言っていた二人に対し。

「あなた達、そこまで口が悪いと、世界ランキングを落とすわよ?」

 と、『プリさん』が窘めた。

 事実、次の試合で『Kichiku』と『Victory』は二位と三位を『Fujiko』と『Morning』に奪われた。

 この時の成績が、後に昼姫に『7週間のトップ10入り』と云う快挙を齎した。

 この調子で、『Kichiku』と『Victory』は順位を譲って、『Fujiko』さんはついでとしても、『Morning』には好成績を維持させて欲しいものだと思ったが。

 『Morning』と名乗る事で、アタシの魂と云うか人格にこのゲームをさせている意識の強い昼姫は、『Morning』の好成績がアタシにとって、どれだけ嬉しいのかを理解していない。

 そんな事実が、昼姫にテレパシーででも伝わればいいのになと思っていたら、昼姫は一種のトランス状態になって、アタシに主導権を握らせてこのゲームを遊ぶようになった。

 尚、テレパシーが伝わったのか否かは、定かでは無かったが、全く無関係ではあるまいと思えるのだった。