『Fujiko』

第26話 『Fujiko』

 その日は、滝川さんに誘われての、『障がい者のeスポーツ大会』と云う事で、誘われて『Trade around the Star』の部門で出場予定だった。

 因みに、滝川さんも『パーソナル・ファイター』の部門で出場予定らしい。

 そして、その会場で、滝川さんは一人の人物を見付けた。

「居た居た!

 藤沢君、今日はお手柔らかに」

「おや、滝川さんじゃないですか。

 ──ソチラの方々は?」

 滝川さんは、何やらハンサムなお兄さんに挨拶していた。

「私の職場の施設の利用者さんたち。

 貴方、確か『eスポーツ』業界では有名だ、って云う話だったわよね?」

「おや、そうですか。

 皆さん、私、藤沢 卯月と申します。アカウント名は『Fujiko』です。

 どうぞ、お見知りおきを」

「ええっ?!あの『Fujiko』さんですか!?」

「……?

 どの『Fujiko』さんかは知りませんが、私のアカウント名は『Fujiko』です」

 一瞬、昼姫は躊躇したが、今はこの美貌がある!と自信を出して、名乗ることにしたみたい。

「私、天倉 昼姫、アカウント名は『Morning』と申します!」

「えっ!?君が、『Morning』さん!?

 ──失礼、少々驚いてしまって」

「私も驚きました」

 二人でお話を、なんて展開になれば良いのだろうけれど、昼姫が名乗ったのだから、他の面子も挨拶を交わす。

「あ、因みに私、『降雪病院精神科デイケア』への、『eスポーツのアドバイザー』として関わっていて、今日は『TatSタッツ』の方で出場予定です」

「私も、──『TatS』って略すんですか?その、『Trade around the Star』の方に出場します!

 お手柔らかにお願いします!」

 昼姫は握手を求めて右手を差し出した。

 コレが、デイケア利用者とデイケアスタッフの間柄だと、恋の成就の可能性は低くなるが、イチプログラムのイチアドバイザーだと云うなら、可能性はある。

 果たして、『Fujiko』さんは昼姫の手を握ってくれた。直後、お互いに「あっ!」と声を上げてから、『Fujiko』さんは言ってくる。

「此方こそ、お手柔らかにお願いします」

 昼姫、見た目こそ綺麗に見えるかも知れないけれど、日常的な家事で掌の肌は荒れているのよね……。その手を握って思ったのは、きっと、『意外に苦労人』とかだろう。

 昼姫は昼姫で、『Fujiko』さんの掌の滑らかさに、それこそ『お手柔らか』に感じた筈だ。

 昼姫は勇気を出して、一歩、『Fujiko』さんに近寄った。

 まるで、心の距離を縮めんが為のように。

 その想いが伝わるかどうかは判らないが、『Fujiko』さんは一方で老師『TAO』である岡本の存在に、それこそレジェンドに接するように何かを話し合っていた。

「老師、お知り合いですか?」

「ああ、いや、有望な若者だから、鍛えてみようと指導対局した事が過去にあってな。

 コレでも儂、この業界ではちょっと有名人なのじゃぞ?」

 ならばと昼姫は岡本に協力して貰う事で、『Fujiko』さんとの会話の接点を作り、徐々に徐々に、心の距離を詰めていくのだった。