第18話 『老師・岡本道場』
岡本には、昼姫含め五人の弟子が居る。
松岡 美鶴(女性)、世界ランキング7位。アカウント名『Venues』。
梅杉 勝利(男性)、世界ランキング3位。アカウント名『Victory』。
菊池 英世(男性)、世界ランキング2位。アカウント名『Kichiku』。
桜 弥生(女性)、世界ランキング1位。アカウント名『Primula』。
そして。
天倉 昼姫(女性)、世界ランキング――333位。アカウント名『Morning』
全員、『Trade around the Star』側のプレイヤーである。
当然、昼姫は一番下の妹弟子である。
そして、その四人が揃いも揃ってこう言うのだ。
「「「「ほほぅ……こ奴は伸びますなぁ……」」」」
――と。
何を根拠に、とは思うが、『333』と云うアラシカブと呼ばれるツキの強さは、一応、昼姫も花札の心得がある。
中でも断トツに強いのが、女性である桜 弥生だ。因みに3月1日生まれで、アラシカブのツキの強さはある。
だが、彼女を以ても、「老師には勝てなかった」と言わしめるのだ。
因みに、今回は岡本の自宅に招かれての、弟子の交流会と云う名目で集まっている。
昼姫も、「他にも女性が居るから、安心して」と言われ、現に精神科デイケアの方で会っている美鶴も来ると云う話を聞いて、応じたに過ぎない。
「さて、何から話そうかね……」
老師・岡本はそう言うが、他の全員の視線が昼姫に向いている。
「そうだね、彼女の自己紹介からにしようか。
天倉さん、お願いしてもいいかな?」
ココで、「いいとも~♪♪」と乗れるノリがあれば、昼姫も早くに彼ら・彼女らに馴染めていたのかも知れない。
「天倉 昼姫と申します。アカウント名は『Morning』、プレイング歴は――約2ヵ月です」
岡本以外の全員の眉が動いた。
「――逸材ですな」
英世がそう評価を下す。
「空恐ろしい才能ですね」
勝利もそう述べる。因みに、プレイングにクセがあって注意してトレードしろと岡本から言われているのが、『Victory』勝利である。
彼は、そのプレイングの癖のお陰で世界ランキング3位に入っているが、その癖のせいで、『Kichiku』『Primula』には勝てないでいる。
彼の場合、『真似しちゃダメですよ』と言われる程の強い癖があり、『厚利多売』と称して、トレードする。
初心者ならば見逃すが、彼ほどのベテランが、その『高倍率でのオートトレード』ばかりを行う愚か者の割には、善処している方だ。
本人曰く、『5倍を超える利率のオートトレードを、ベテランがやっちゃダメとは言われたくない!』のだそうだ。
「はい、じゃあ、正式に昼姫ちゃんに自己紹介したのは『Venues』さんだけだろうから、ランキング順に自己紹介して」
そして自己紹介したのが冒頭の内容であり、昼姫はバッチリとメモを取った。
「と云う訳で、世界ランキングを上から5位まで独占するのが、この『老師・岡本道場』の目標ね、一応」
昼姫は、今更になって、「一体、何の魔窟に入り込んでしまったのか」と後悔する程の、岡本の弟子の優秀さであった。
何せ、美鶴から挨拶された時も、「この人が一番弟子に違いない!」等と昼姫は勘違いしたのだから。
「ここでは、ランキングが全て。ランキングだけが物を言う。
そして、ランキングが下位の者は、上位の者に対して敬語を使わなければならな――あ痛ぇ!
老師、暴力はダメですよ!拳骨は体罰です!」
「昼姫ちゃん、今、『Kichiku』が言った言葉は、全て聞こえなかった事にして貰えるかな?
おい、『Kichiku』。お前、心まで鬼畜に成り下がったのか!?」
「じょ、冗談を言っただけですよ、ハハハ……。
――何、この凍て付くような空気」
全て、『Kichiku』の自業自得である。
「『Morning』さん、歓迎するわ。『Primula』と、三人目の女性が居れば良いのにね、って話してたの。
因みに、『Morning』さん含めて、全員、スポンサー持ちだから。
公式の場じゃなくて良かったですね、『Kichiku』さん。危うく、全スポンサーを逃しかねない言動でしたよ?」
昼姫は、この場では冗談一つ許されないのかと、一人、恐々とするのであった。