第6話 人間を辞めたレベル
『eスポーツを体験してみよう!』のプログラムも、参加するゲームが二分された。
即ち、『パーソナル・ファイター』と『Trade around the Star』とに。
昼姫は『Trade around the Star』に参加していたが、ビギナーズ・ラックだろうか、最初に引いた惑星は、成長限界の高い惑星でのゲームだった。
即ち、プレイする度に儲けが増えて、順位も徐々に上がってゆく。
真珠は、他の惑星では勝ち点が高いらしく、トレードの条件も、どんどん良くなっていった。
遂にはトレードの勝ち点倍率も岡本の10倍に追い付き、順位もあの時の岡本と同じく、約3000位にまで上がった。
そして、岡本曰く、海洋系惑星のピーク寿命は、まだまだ先らしかった。
因みに、トレード相手側のトレードに依る勝ち点倍率も、真珠ならば5倍~7倍位らしく、まだまだ『美味しい』方のトレードであるらしかった。
「つまりは、この惑星に於いて、真珠は勝ち点的には美味しくないのですか?」
昼姫は岡本にそんな疑問を投げ掛ける。
「うん。生産惑星での価値なんて、そんなものだよ」
そして、食糧をトレードで得る度に、惑星の住人は増え続け、真珠の生産ペースも上がる。
住人の数は、勝ち点として数えられる。むしろ、昼姫の引いた惑星は、住人の数を確保すると云う観点から見れば不利な惑星であるらしい。
そして、最大のトレード材料の真珠は、他の惑星では価値が高い。即ち、勝ち点として美味しく、継続してトレードしたい相手となるらしかった。
「アワビの干物も、トレードで人気みたいですからねぇ……」
人気となるトレード材料については、時間を掛ければ、美味しい倍率でのトレードを選り取り見取りであるし、勝ち点としては、5倍を下回るトレードは断る余裕すらあった。
「天倉さんも、随分と操作に慣れて来たねぇ……」
「――え?何ですか?――あっ!良い条件のトレードが!」
僅か一ヵ月で、熟練プレイヤーだ。コレは、岡本も想定外の成長だったらしい。
「――負けちゃいられないな。
おっ!『石油型惑星』!
石油王に、儂はなる!」
岡本も、中々の好条件の惑星を引いたらしかった。
だが、『石油型惑星』は、ピーク寿命が比較的短い。
だからこそ、順位を上げるには好都合と言えた。
実は、昼姫の引いた『海洋型惑星』は、人気の惑星のベスト5に入る程であるらしい。
何よりも、ピーク寿命の長さが、他より大きく優れているらしかった。
そして、宝石や石油が勝ち点倍率が高く、宝石は兎も角、石油は消え物の一つと言えてしまう。
だが、だからこそ、石油を消費した時の真珠を始めとした、海産物――干物等を稼ぐのには効率が良く、結果として勝ち点を増やし易い。
そして、次回のゲーム開始時には、開発の進んだ段階のその惑星から始められるのであり、岡本曰く、「上手く稼げば順位2桁も狙える」のだそうだ。
既に、人間を辞めたレベルの操作を行う昼姫には、作業に近く、だが、『コレは美味しい!』と云うトレードが出来た時の喜びが、昼姫を突き動かしていた。
尚、昼姫が岡本と一緒にプレイする時には、お互いに『美味しい』トレードを行い、利益を協力し合うのだが、岡本は兎も角、昼姫は無意識でトレードしていた。
後に岡本から『美味しいトレード、ご馳走様』と言われて、ようやく気付くのである。
順位で、中々岡本を抜けない。常に岡本が順位で上におり、ソレを昼姫は一つの目標としていた。
兎も角、このゲームに昼姫は向いていそうであることは確実だった。
そして、昼姫はランキングを見ていて気付く。
――恐らくあの『Fujiko』が、このゲームに乗り換えたのか、『パーソナル・ファイター』と並行してやっているのであろうことに。
悔しい事に、『Fujiko』は昼姫より上のランキングに居た。岡本にも迫っている。
そして、その事を岡本に話すと、こう返って来た。
「うん。熟練のプレイヤー。多分、スポンサーが付いた『プロeスポーツプレイヤー』なんじゃないかな?」
それを訊いて、昼姫は思った。
「岡本さんは、『プロeスポーツプレイヤー』を目指さないのですか?」
「かつては『プロeスポーツプレイヤー』だったよ?
でも、精神を病んだものでね。
『常勝無敗の7年間』とか、やらかしてたからねぇ……」
どうやら、岡本は若い頃はヤンチャだったらしい。
『常勝無敗の7年間』など、一見、岡本の黄金期に思えるが、流石に勝ち過ぎである。黒歴史に近い。
「まぁ、今でも偶に、スポンサーから声は掛かるんだけどさ」
岡本は、今でも『Trade around the Star』にて、ランキング100位以内に入る腕前である。
勿論、星の『引き』の強さがあった上での話だろうが、その操作テクニックは、昼姫が見て、何とか理解は出来るが、真似は出来ない、と云うレベルである。
試しに、一度だけと云う条件で昼姫のスマホでプレイして貰うと、何と、77位と、中々に縁起の良さそうな順位である。
昼姫は、未だ3桁の順位に入る事も出来ていない。素直に、腕前の違いだと昼姫は認めた。
一体、どれだけやり込めば、そんな順位に入れるものかと思ったが、昼姫は岡本がプレイした直後のゲームで何と、3桁に入れた!
だが、ギリギリの999位であり、流石に自慢にはならないだろうと思って岡本に報告すると、「へぇー」と感心されてしまった。
やはり、次回のプレイ時に備える操作を行っていたようであって、その差が、岡本とは大きく違っていると、ようやく気付けた。
ならば、実践あるのみである。
昼姫は、徐々に徐々に、上達していった。