第1話 魔王転生
「誰がお前なんかと付き合うか、このブース!」
天倉 昼姫が、斎田 昭二に告白して、フラれる時のセリフである。
昼姫はカッとなった。そして周りを見回すと、カッターナイフが一つ。
昼姫も参加していた、精神科デイケアでのミサンガ作りのプログラムで使っていたものである。
カッターナイフを手に取ると、刃を全開で出して、斎田の腹に突き刺した。それも、滅多刺しである。
「ちょっと、天倉さん!
斎田君、大丈夫?!
誰か、応急箱!」
昼姫が通っている精神科デイケアで、昼姫を担当している滝川 翔子と云う名のスタッフが声を上げた。
「天倉さん、カッターから手を離しなさい!
斎田君、ゴメンね、ちょっと待って。手当するから
天倉さん、手を離しなさい!」
昼姫は茫然自失しているみたいだから、身体を乗っ取ってカッターナイフから手を離した。
まぁ……ブスって云うか、デブよね、昼姫。頭の中で巣食っているアタシでもそう思う。
でも、直接的にそこまではっきり、女の子に向かって『ブス』は無いと思う。アタシも殺意を込めたもん。
流石は、神様から『お前を魔王として転生させる!』なんて言われて生まれて来ただけはあるわね。
アタシは――ソレを討つ勇者だった筈なんだけれど……。朱に交われば赤くなるなんて言われる通りに、昼姫に毒されてアタシまで魔王化。
斎田は応急処置を受けると、スマホを取り出した。
あーあ。警察に通報されちゃった。
コレで、昼姫の人生もオシマイかもね。
……なんて言っていられないのよ!
昼姫の中にはアタシ、姉の朝姫も魂を宿しているんだからね!
さて。こっからどうやってリカバリーさせよう……。
斎田の応急処理を終えると、滝川さんは昼姫に向かって声を掛ける。
「どうしてこんな事したの?!
天倉さん、大丈夫!?」
カッターナイフの刃を収めて、エプロンのポケットに突っ込んだ滝川さん。
あー……、今の昼姫に、対応は無理かなぁ。
なら、アタシの出番よね♪♪
「……許せなかった」
「……え?」
「……アタシを、ブスって――」
やがて聞こえて来る、救急車とパトカーのサイレン。
あー、もう知らない!
全責任を昼姫に任せよう!……って、アタシの魂を宿したまま、責任取らされるの!?この子、なんてことをしてくれたのよ!
まぁ、アタシも「ヤッちゃえ!」って煽った気持ちがあったのも本当だし、仕方のない事なのかもねぇ。
はぁー、この、昼姫メインの身体のコントロール権、何とかならないかしら?
それにしても、どういう罰が下されるのかしら?
精神科デイケアに通っていて、治療の途中で責任能力を問えず、処置入院、なぁーんて甘い処遇では無いでしょうね。
果たしてどうなることやら……。