第75話 ローン契約手続き
「は?ダークライオンを提供して欲しい?」
疾刀との面会は、意外にもすんなりに通った。
「……コチラも忙しいんですよねぇ。
予算を仰って頂ければ、支払い次第、渡す事の出来る台数を用意しますので、予算を仰って下さい。
交渉している時間はありませんので」
「即金、って事か?
ならば、200万円では如何だろう?」
恭次は札束を2つ取り出してテーブルの上に置く。
「領収書とダークライオンを持って来ますので、ソレと引き換えでお願いします」
そう言い札束を放置したまま、疾刀は席を外す。
「アイツ、金も受け取らずに、用意してくるつもりかよ。
まぁ、確かに、ココで小細工なんかしたら、ダークライオンを受け取れない可能性があって、その場合、俺らが困るんだがよぉ」
「信用してくれてるってことじゃないかしら?
それより、彼が来るまでは、懐に隠しておきなさいよ」
「……それもそうだな」
やがて、疾刀が商品らしきものを袋に入れて持って来た。
「お待たせしました。
軽く相談した結果、最新鋭のダークライオン『LI-A4』を三台、提供致します。
少々高いと思われるかも知れませんが、正直、妥協してこの数です。
不満があるなら、そのままお帰り下さい」
「いや、正直、ありがたい」
「出来れば、性能に関して、注文点等がありましたら、コチラで改良の余地がありますので、意見を届けて下さるとありがたいです」
「3台で200万円でいいのか?」
そう言い、恭次は再び札束を出す。
「ええ。本来であれば、2台が限界でしたが、紗斗里の意見を取り入れ、3台提供致します。
どうか、有効にご活用願います」
「ありがてぇ。
紗斗里ちゃんにお礼を述べておいてくれ。『サービス、ありがとう』とな!」
「使い道は予想がついていますが、出来れば、今回の5倍の代金を用意してくれたら、最大15台まで提供したい、だそうです」
「申し訳ない。他の代金の支払いが滞納している今の状況で、ダークライオンの為だけに1000万円は用意出来なかった。
ローンでも組ませて貰えるなら、その位の金額は支払えるが……。
胸を張って『支払いを滞らせる事は無い!』とは言えない」
「別に、構いませんよ?
まず、今回の支払いと商品・領収書の引き渡しを済ませてからの話にしましょう。
代金は受け取ります。帯封も付いていますし、信用して受け取りましょう。
商品の方、チェックしてみて下さい」
そう言い、疾刀は袋をテーブルの上に乗せて恭次たちの方へと差し出し、札束二つを受け取った。
それから疾刀はローン契約について、タブレット端末で処理を進めていく。
すると、エレベーターの方から、小さな人影が近寄って来た。
その子は、楓だった。
「疾刀兄ちゃん、忘れ物」
「――ん?ああ、ソレね。ワザと持ってこなかったんだ」
楓が持って来たのは、残り12個の『ダークライオン』だった。
疾刀はソレを確かめながらも、ローン契約を相手側の署名待ちまで処理を進めていた。
「どちらか、コチラに署名をお願い致します。
あと、銀行のキャッシュカードかクレジットカード、今、お持ちですか?」
「『クルセイダー』名義のクレジットカードとかあるが、ソレで構わないか?」
「――ソチラが困らないのでしたら」
「ついでだから、今、料金を滞納しているサイコソフトとかの代金も、この際、ローン契約手続きしておこうか?」
「支払い能力に問題はありませんか?」
「問題ない。ウチの支部でも十分に上納している。
つーか、『Swan』使いの存在によって、北海道支部だけでも『クルセイダー』の中では断トツトップの稼ぎ頭だ。
文句は言わせねぇ」
そう言いつつ、恭次はローン契約手続きの署名を済ませた。そして、クレジットカード情報も打ち込んでゆく。
「月100万円の支払いで、100ヵ月単位のローンかよ!
こりゃ、頑張って稼がないとな」
ハハハと、恭次は渇いた笑いを上げる。
「――以上でご用件はお済みですか?」
「ああ。ありがとう。ココまでスムーズにこの契約条件を取り付けられたのは、俺らは『クルセイダー』内部で評価されるに値する取り引きだった。
また今度、用事があったら、アポ取ってまた来るよ。
まぁ、そんな事が無い事の方が望ましいんだがよ!
ハハハ……」
四人は立ち上がり、お互いに拳を当てて挨拶とし、二人は去った。
「さて。あちらの問題は彼らに任せて、僕たちも出来る事をやらないとな!」
取り急ぎ、『総太郎』のプログラミング。疾刀に出来るのは、その位の事であった。