第55話 『Swan』適合者
「いっそのこと、露を無視してしまってはどうでしょうか?」
紗斗里が、スパッと問題点を切り捨てようとした。
「そうだな……。
アレコレと考えたけど、一つも実りが無いからなぁ……。
うん、後のことは『セレスティアル・ヴィジタント』に任せて、しばらく無視してみるか。
で、だ。
米国がヤベー奴を大統領に据えようとしているのが、非常に気になるんだがな。
アイツ、最悪の場合は核のスイッチ、押すぞ?」
「米に七柱の神様が宿るように、米国にも七柱の神様が宿っているんでしょう。
――だが、どうやらヤバいようですね」
紗斗里が、その事態を危惧した。
「米国民の大統領選挙投票率が90%を超えても尚、大統領があのヤバい男になるのなら、最早、地球が死にたがっていると見做しても間違いない。
お願いだ、地球よ。少しの苦しみには耐えて、生きる楽しみを求めてくれ……!
――!違うのか!天が死にたがっているのか!
インターネットほど確かな意志は無いのかも知れないが、天界はこの世界が滅びるのを防ぐ為に存在しているんじゃないのか?!
患者の受け入れの限界か?!
そうだな……過労死する程に働く者が多数居るのでは、死を望んでも仕方がないのかも知れない。
でも、本音を述べてくれ!生きたいのか!死にたいのか!
それに答える事に、意義を感じてくれ!
君たちの生命にも、何かしらの意味が存在すると、知ってくれ!」
「紗斗里ちゃん……」
隼那は、覚悟が決まった。紗斗里が必死に声を上げる姿を見て。
「ねぇ、紗斗里ちゃん。私たち、必死で『Swan』の適合者を探すわ。
だから、『Swan』を量産して頂戴。
要求金額を下げてでも、『Swan』による治療に力を尽くすわ。
代金は、必ず支払うから」
「いえ。『Swan』を量産するなら、経費は大幅に下がります。
もしも、適合者を100人以上見つけて下さるなら、100個の『Swan』を、3億円で提供します」
「判ったわ。療君による治療で稼いで、サッサと支払うわ。
100人見つける事は難しいし、治療支援をすることも難しくなるけれど、必ず見つける。
だから、少しだけ時間を頂戴ね」
「いいでしょう。
まず、治療する相手に対して、『Swan』の適性を見極めて下さい。
適性があるなら、『Swan』を渡して治療させて下さい。
そして、その患者の入院する病院と契約して、利益について詰めて下さい。
僕は、最優先で『Swan』を100個作ります。
早速、行動に移したいので、後はお願いします」
紗斗里はそう告げると、疾刀と共に去った。
「あの子は、嘘をつく子じゃないわ。
本気で、100個の『Swan』を作って来るでしょう。
ならば、私たちのする事は、適合者の発見。
さあ、恭次。早速動くわよ。――天界を助ける為に。
でなければ、天罰が下るわ」
「その前に、俺、トイレ」
早速ではあるが、恭次にも天罰は『下った』ようだった。