第30話 果てしなき七日間
『クルセイダー』の札幌支部に居る皆が駆り出されて、『穢れ』の撲滅作戦は決行されようとしていた。
「あとは、僕らが『ゲート』を作るだけですね」
理論上の限界値を超える超能力を行使する能力を持つ、レベル10の式城 紗斗里。彼女を以てしても、『ゲート』を作るには未だレベルが足りない。
恐らくは、レベルの限界を超える超能力の行使の方法が解るかと思われたが、紗斗里は単に苦しそうな表情でゲートの断片を作り、ソレを人が入れるサイズに広めたのみだ。
「では、皆さん。後はよろしくお願いします」
隼那は恭次と顔を見合わせた。
「よろしくお願いします、と言われてもなぁ……」
「何をどうすれば良いのか、さっぱりよ」
紗斗里は、「ソコから説明か……」と呟いた。
「行けば、判ります。
『穢れ』を広めている者が、複数名。数は限り無く多いと思っておいて下さい。
ちなみに、彼方では『想像したことが現実化』します。
くれぐれも、更に災禍を広める事の無いようにお願いします」
「想像する事すら禁じるかよ。
どんだけデリケートな世界なんだ?!」
「行けば判ります。判らなかったら、一旦帰還して下さい」
そう言われて、恭次・隼那の順でゲートを潜る。
「――何、コレ?」
隼那はその世界に入った時、まずその世界の美しさに驚いた。
枯れ葉一枚とて落ちてはいない。
『常世』との説明を受けて、勝手に夜の星空の下だと思ったら、真昼間だった。
ォォォォォォォォォォォォォ……!
「――恭次。何か聞こえなかった?」
「ああ。こっちだ」
そう云って二人が向かった先が、小高い丘の上だった。
ソコで、ゴミ袋を一つ掲げた男が、勝ち鬨を上げていた。
「思うに、あのゴミ袋が『穢れ』ね」
隼那と恭次は、その男をあっさりと伸して、ゴミ袋を回収し、即座に恭二の『プロメテウス』で焼き払う。
「――向こうからも聞こえるわ」
「やれやれ。一件一件一つずつ始末して行かないとダメかよ。
俺たちが何組も居るのでも無ければ、大した一大事だぜ?」
そう、恭次が言った瞬間だった。何組もの恭次と隼那が、ソコから彼方此方へと散っていった。
「おいおい、本当に想像するだけでそうなるのかよ!
だとしても、いつ・何処に・何件あるのか判らない場所の全てを駆除しなければならないのかよ!
アイツらが居て尚、一大事だぜ?」
「恭次。恐らくだけど、数はそんなに多くない。
その代わり、どの時間軸のどの時点からどれだけ未来に向かって『穢れ』をばら撒いているのか、判ったものじゃないわ。
出来る限りの事はしましょう。
幸い、この世界では、時間軸の移動が楽そうだから」
「良し!根本となる場所から、駆除して行くか!
何時に移動する?」
「恐らくは――4年前。
場所も見当がついた。青函トンネルよ!」
予想を立てたら、二人は4年前の青函トンネルに居た。
ソコで見た光景とは――
「おいおい、迷子のばい菌の子供を、親のばい菌にわざわざ引き渡しているぜ?」
「子供と引き合えて嬉しいのかも知れないけど、ソレは私たちを蝕みかねない病魔の元よ。
あの阿呆が観察を終えたら、早々に始末するわよ!」
「おう!」
間もなく、グングニルと『プロメテウス』の火が、ばい菌の親子を始末した。
「ゴメンナサイね。貴方たちと私たちは共存共栄は出来ないの」
「あの阿呆が、優しくなりた過ぎた余りに救った命。残念ながら、お前らは俺たちを害するコロナ禍の元となるんだ」
元凶を討ったに思える二人。だが、『穢れ』はまだまだ広まっていた。
「畜生、キリが無いぞ?
いつまで狩り続ければ、帰還出来る?」
「でも、連中も決まって勝ち鬨を上げているわ。ソレが無くなるまで続ければ、とりあえず大丈夫じゃないかしら?」
「何時の時間軸からの幾つの場所まで始末すればいいのよ?
どの位の努力が必要なのかの目途が立たないと、士気も上がらんぜ?」
「恐らく、地球が七つある前提で考えた方が良さそうね。
その全てで駆除が完了したら、ミッションコンプリートよ」
「かぁーッ!気の長い話だこと。
いっそ、七か年計画でも立てて、ソレで始末を済ませれば終わって欲しいものだねぇ……」
「いえ。七日間で始末すれば、お役目は果たせるわ」
「全く。限り無く長い七日間だな!」
「長期戦を覚悟するわよ。
何しろ、違う時間軸へと干渉する行為だからね。
七日間が過ぎるまでに、私たちがどれだけの時間を、『穢れ』の駆除に要するものか、見当がついたものじゃないわ」
「気長にやれ、ってかよ。
とりあえず、リアルタイムで七日間で済むのが、そんなに楽な作業では済まない覚悟を決めないと、だぜ!」
「それは、あの阿呆も判っている事じゃない?
結局、事はあの阿呆が始末出来なければ、あの阿呆の死後に負の遺産となってパンデミックが止まらない、って事になりかねないからね!
責任者は、実はあの阿呆じゃないのよ。名付け親なのよ。
でも、名付け親も当時は子供だったから、責任能力は無かったのよ。
そもそも、1999年の恐怖の大王をヨゲンした、ノ〇トラ〇ムスの責任が大きいし、七大魔王の存在を定めた、ウチの本部も関わる宗教の教祖が悪いのよ。
縁起を良くする為に、ワザと縁起の悪い存在を作った。
だけど、あの阿呆は『777』の縁起の良さの理由に気付くべきでは無かったのよ。
それでも、あの阿呆をイジメ過ぎた連中の責任は重いから、恐らく既に亡くなった者も多いでしょうね」
「『七つの大罪』の全ては、あの阿呆が背負う覚悟の十字架なんだろうがよ。
ちっと、重過ぎやしないかねぇ?
しかも、ソレを呪う者も居るが、呪いが自らに返っていく事は承知の上、だろうなぁ?」
「相手はプロですもの。責任能力は持っている筈よ?
責任を果たせないのならば、その能力で稼いだ全財産を支払う位の覚悟は見せて欲しいものよねぇ?」
「問題は、誰に・或いは何処に全財産を支払うか、だよな?
まさか、あの阿呆に支払うつもりは無いだろうしな!奴なら、全財産とは言わずとも、納得が行く金額なら満足するだろうが……。
本人は、自らに支払われることを望みもしていないと来たよ!
男なら、自分の実力で稼ぐ、ったって、あんなに呪われてたら、花火の一発も打ち上げられないだろうが、なぁ?」
「ならば、コロナ禍はアイツをイジメ過ぎた罰と云うものよ。
天災であるが故に、天の意思で齎された災いであるのならばね!」
「――で、俺たちはその後始末をしている訳だ。
ったく、やってられんぜ!」
「フフフッ。安心なさい。
真に努力するのは、あの阿呆だから」
「……だな。
俺たちは、指示通りに動けば良いだけ。
ある意味、気楽な作業よな。あの阿呆と違って」
「でしょ?
それが判ったのなら、急ぐわよ!
私たちの分身が努力しているとしても、私たちが終止符を打たなければ、いつまで経っても終わる事では無いわ」
「……違いねぇ」
こうして、『クルセイダー』の皆は『穢れ』の始末に奔走するのだが、肝心の、世界樹に殺意を向けた『ベルゼブブの魔女』の存在を消さなければ、死者が増え続けるのを、知らずに居たのだった。