第21話 日本の救世主
「よく来たわね、楓ちゃん。
それで?何の用かしら?」
隼那にそう問われた楓は、バグデスを取り出して見せる。
「『Locust Black』バグデス。
虫だけを殺すサイコソフト。
コレで、蝗を駆逐して欲しいの」
「――代金は?」
「このサイコソフトの譲渡。――まさか、足りないと言う?」
「いえ。十分だわ」
「レベル6以上なら扱える。
注意点が一つ。コレは、範囲内の虫を、『約99.9%』殺すサイコソフトだから」
「――全滅はさせられないと?」
「はっきり言えば、そう」
隼那も、コレには困った。
だが、瞬間、楓がコレを作った意図を悟った。
「待って。畑や水田に使っても、虫しか殺さないサイコソフトってこと?」
「その通り」
隼那は、ようやくコレに利用価値を認めた。
「――使えるわね……」
『Dragon』やプロメテウスでは、畑や水田に対して使うと、作物にも被害を与えてしまう。
だが、バグデスは違うのだ。
「――まさか、微生物迄殺す?」
「いいえ。文字通り虫だけです」
「まさか、恭次も殺せる?」
「いいえ、氏神様を殺せはしません」
「雪虫や鈴虫は?」
楓は、ちょっと困った顔をした。
「責任重大なので、宣言します。虫の名の付いた人間は殺せません」
「そう、良かったわ」
恐らくは、思い込み次第なのだろうと、隼那は判断した。
そして、式城 紗斗里とも繋がりのある楓の発言は、大きな影響力を持つ。
事実上、虫の名前の付いた人間は、確かにこのサイコソフトでは殺せないのだろう。
「依頼内容を、詳しく詰めておこうかしら?」
隼那は楓を『ちゃん付け』で呼ぶが、彼女が見た目と不相応の年齢をしていることは知っている。
「出来れば全世界で、難しければ日本でだけでも、蝗害から救って下さい。
依頼内容は、以上です」
そう、楓はこう言うのだ。
「日本の救世主になって下さい」
――と。