第10話 ケルベライオン
「はぁー、損害額、莫大ね」
隼那は、その事実を嘆いた。
だが、ソレで良かったのかも知れない。
何せ、『クルセイダー』でも、抱えている二人の『Swan』使いは、超過労働を強いられていたのだから。
それでも、無理強いしてまでは治療は行っていなかった。
三人目でようやく余裕が出てくれるかと期待していれば、あの有様だった。
「収入減……は大した損害じゃないわ」
問題は、『Swan』を使える人材を失った事である。
まぁ、次を探せばいい、と――そんな単純な問題では無いのだ。
何せ、『Swan』の適性持ち能力者は、100万人に一人と言われている。
『偶々』や『偶然』で確保できる人材では無いのだ。流石に、『奇跡』が起これば発見されるが。
適性検査は国ぐるみで行っているし、ソコからの情報源の伝手も『クルセイダー』は握っている。
そして、これから『Swan』の需要がもっと増える懸念がされている。
特に、露のキラーチーム『アーンギル』は、日本に対して宣戦布告した状態にあり、クルセイダーの各員は、国内の要所を護るべく、配備されている。
中でも北海道は、露が『我が国の領土』等と宣戦布告に等しい発言をしており、逆に襲撃を掛ける案もクルセイダー首脳陣から出されている。
そして、スーパーコンピューター人工知能(略称・SCAI)『式城 紗斗里』によって、一つ対策は打たれている。
それが、新SCAI『式城 総司郎』であった。
性能的に、『式城 紗斗里』を上回る可能性を秘めたSCAIであり、超能力の行使を『前提とした』SCAIでもある。
つまりは、『式城 総司郎』そのものが、一つのサイコソフトなのである。
彼との接続を任されたのが、『風魔 疾刀』である。
彼は元々、優れたアンチサイ能力があり、ジャミングシステムの開発者でもある。
キラーチームを相手取るには、必須に近い能力者であった。
だが、彼個人がクルセイダーに協力的な訳では無い。
それでも、その才能は余りにも圧倒的であった。
これまで、『CAT』する事でしか、超能力の起点を示すサイコワイヤーを捉えて無効化する事が出来なかったと思われていたのだが、疾刀はその常識を覆した。
そのサイコソフトを『Cherbelion』と名付けられ、効果範囲内の指定されていないサイコワイヤーを打ち消す。
その効果範囲も広いものであり、疾刀が使用すると札幌市内全域を覆い尽くす。
当然、他の超能力も全て防ぐ。――登録者以外。
それをジャミングシステム化したのが、『Dark-Cherbelion』である。
効果範囲は、半径約1キロメートル。ソレを、北海道の重要拠点には仕込んである。
過ぎたる自由は犯罪の温床だ。自由を認めつつ、犯罪は予防していくのが正しい在り方だと思われる。
少なくとも、疾刀はその方針でやって来た。
だから、大和カンパニーは、ジャミングシステムの核になる疾刀の細胞の提出に対して、億単位のボーナスを出している。宝くじにでも当たったようなものだった。
まぁ、疾刀のボーナスに関して言えば、高い税金が課せられるのだが。
細胞の提出と言っても、採血されたのみだ。
問題は、疾刀の細胞に含まれる遺伝子の問題だった。
昔は、髪の毛で代用していたらしいが、血液の方が効果が高いらしい。
ただ、その分、遺伝子の寿命は短くなった。
今現在、髪の毛と血液の並行利用の試験開発中だ。
問題は、隼那や恭次と疾刀の関係が、『協力者』ではなく、『知人』でしかない事だ。『友人』ですら無い。
ただ、違う方向性から、自らの『正義』を追求しているだけの関係性だ。
疾刀からすれば、『犯罪を以て人助けをするのは論外』と云う話だし、隼那と恭次からすれば、『法律だけでは救えない人がこの世には多過ぎる』と云う話だ。
真っ向から対立しているように見えて、裏で手を結んでいるのに近い状態だ。
それは、第一に人々を、特に北海道民を護る為に行っているに過ぎない事を、皆、理解していた。