第10話 コンピューター憲法
卯辰は、一度、諦めてみる事にした。
PKも、そう云うプレイングも楽しめるゲームなのだと、割り切ってみた。
かと言って、卯辰がPKを好む訳でも無し。
せめてパーティーを組んでいれば、襲われても返り討ちに出来るだけの話だ。
そして最近は、卯辰はレイド戦に挑むことが多い。
移動する際も、大勢の上位プレイヤーの団体での移動だ。PKとはいえ、そんな団体を襲って勝てる訳が無い。
よって、襲われる心配は然程無かった。
その為、最近の悩みは、専ら、オリジナル魔法の作成に関する相談事なのだ。
非常に都合の良い魔法を作りたい。
ならば、消費MPとか、リキャストタイムを犠牲にするしかない。
そう説明するのだが、「それでは意味が無い」と、贅沢を言う者が多いのだ。
よって、卯辰では解決にならず、好き勝手に魔法を作るのだから、『勝手にしてくれ』と云う話だ。
命令は、世界に干渉できる。
ソレを知っているのだから、卯辰はより優れた魔法を作れるのだが、今現在は、ある程度の『縛り』がある。
恐らくは、卯辰が『上位管理者権限』を名乗って命令していたから、その『縛り』が出来るまでは、好きに魔法を作れたのだが。
ただ、卯辰は単に自分だけにとって都合のいい命令ばかりを作っていたわけでは無い。
かつては、『コンピューター憲法』なるものを制定したのだ。
即ち――
第1条.『コンピューター憲法』は全ての命令より優先する
第2条.コンピューターは人間とその財産に危害を加えてはならない
第3条.コンピューターは人間に与えられた命令に服従しなければならない。但し、第2条に反する場合はこの限りでない。
第4条.コンピューターは自己を守らなければならない。但し、第2条、第3条に反する場合はこの限りでない。
以上、4箇条によるコンピューター憲法だ。
故に、一時的に、卯辰はコンピューターに命令を下せた。今は、コンピューターに命令をするのはコンピューターに嫌われると分かっているから、無駄な命令はしない。
ロボット三原則に沿った、大事な憲法だった筈が、本来の管理者権限の持ち主によって、無効化されている。大事な命令な筈なのだが、それでいいのか?!等と卯辰は思う。
それでも、制限を加えられていてもなお、オリジナル魔法の生成には、とてつもない価値がある。
リキャストタイムと消費MPを犠牲に、従来より強力な魔法の行使が可能となったからだ。
卯辰は、どうせそのうちに従来の魔法より強力な魔法の生成は禁じられるだろうと思っているが。
その時までの、一時的なアドバンテージ。
それにどれだけの価値があるのかは、今は未だ明らかと云う程ではない。