次の仕事

第26話 次の仕事

 治験開始より2カ月。遂に明らかになった、『人工天使』計画。

 だが、俺達には何ら有効な対策が出来る訳も無かった。

 最近、とみに疲れるなと思う。

 その原因は、『翼』だ。

 道理で、カロリーオーバーと思われる食事を摂っても、太らない訳だ。

 今日の朝飯は馬肉鹿肉丼にした。

 コレがまた、馬鹿みたいに美味いのだ。馬肉鹿肉だけに。非常に美味しかった。

 仕入れのルートは、相変わらず謎だ。一つの病院だけで出来る事とも思えないから、恐らく、協力者がいるのだろうなとは予想できる。

 問題は、『人工天使』を作る目的だ。もしかしたら、『人工天使』を作るだけが目標で、他に目標を定めていない可能性もあるのだけれども……。

 人工的に天使を作るなんて、天使の役割と言われる人の魂を天国に運ぶことは、『死神』の仕事にも近しいのに……。

 つーか、俺が天使になったら、もう言い訳の出来ないレベルで『死神』のニックネーム通りだな!腹立たしいことに!

 俺に『死神』やらせちゃマズいだろうが!分かっててやってる?はい、そうですか!

 ところで、神菜に一つの変化が表れた。

 三枚目の翼の出現だ。

 この変化は、あちら側でも予想していなかったらしく、大慌ての様子だった。

 当初、三枚であった翼は、薬を飲む度に増えていった。

 コレに関しては、神菜はあちら側の意向に従わず、一日一錠の服用で翼を増やし、最終的に三対半七枚のところで、「縁起が良い」と言ってそれ以上は増やさなかった。

 結果、何の変化があったかと云うと、神菜は飛びやすくなったと言い、飛行速度も上がっている様子だった。

 これならば、日本の方角が分かれば帰還出来そうなものだと思ったが、それは言わなかったし、神菜も去るつもりは無いらしかった。

 あとひと月で終わりかと思うと、この島の快適さに帰りたくなくなる。

 本当に、出来る限り不便の無い環境が整っていたのだ。

 こんな快適な暮らしを覚えて、元の生活レベルに落とせと言われるのも、中々に酷である。

 ――そう云えば、この翼のある状況で元の生活に戻って、何も言われない筈が無いよな……?

 この治験、報酬は約束していてくれるけど、元の生活に戻った時のその肝心の『生活』の保障が何もない。

 まぁ、それでも、時間が解決してくれることだろう。

 問題は、仕事かぁ。

 ピザの宅配とかやってみるかな?――否、晴天時ばかりではない。その選択肢は無い。

 意外と、空を飛べるだけじゃ、仕事の幅って広がらないんだなぁ。

 ……ん?人命救助系のレスキューの仕事なら、役に立ちそうだな。雨天の時は、二次災害を防ぐ為に、避けても許されるだろうし。

 ドローンですら、あれだけ役に立つんだ。人が飛べて、不便な訳はあるまい。

 でも、ボランティアでやるのも嫌だなぁ。収入に繋がるならやりたい!

 SNSで募集して、応募があったら報酬の相談の上でやれば、稼げそうだ!

 ……でも、遭難して死にそうなところに、翼の生えた人間が現れたら、天からのお迎えと勘違いされないかな……?

 報酬は成功報酬でいい。藁にも縋る思いの人の手助けになって、それで収入も手に入るなら、一石二鳥だ。

 ……ん?ここの人たち、医療関係者だし、レスキューに役立つ人材となったら、雇ってくれる宛を探してくれる位はしてくれるんじゃないだろうか?

 ちょっと、相談しに行ってみよう。

「レスキューの仕事、ですか?」

「はい。空を飛べるなら、役立てるかと思いまして」

「それ相応に鍛えてもらう事になりますよ?」

「――相当厳しいですか?」

「過酷な環境でこそ役立つ仕事ですから」

「うーん……ちょっと考えなおします」

 治験中だったので、晴海先生に相談したのだが、返事は中々に渋い内容だった。

 そして、神菜にも疑問を投じられる。

「何を相談に行ったの?」

「うん、この空を飛ぶ力を使って、人命救助とかのレスキューで働けないか相談してみたんだけど、返事が中々に渋かったんだ」

「役に立ちそうな仕事ね。諦める事は無いんじゃない?」

「それ相応に鍛える事になるそうだ」

「その位、男なら努力と根性で乗り越えなさいよ!

 ついでに、私もそこに加わってみようかしら?」

「……鍛えるのが苦じゃないのか?」

「女性たるもの、美しさを保つ為には、努力は怠らないものよ。自分を不細工と諦めた人以外は」

 そんなものなのか。なら、俺もその鍛錬に負けてはいられないな。

「晴海先生に、仲介して貰おう。その方が良い。

 神菜、一緒にどうだ?」

「そうね。この仕事が終わったら、その先に続ける仕事も思いつかなかったし、いいんじゃないかしら?」

 神菜も乗り気だ。いっそ、残り一カ月も鍛錬に費やそうかな?

 俺たちは、晴海先生にレスキューの仕事への紹介をお願いした後に、二人でジム施設に行き、その日から過酷なトレーニングを続けるのであった。