第24話 薬の効果時間
飛翔薬の治験は、新たなステージに上がりつつあった。
即ち、効果時間の延長。
理屈は詳しく聞いても分からなかったけれど、要するに、薬が身体に馴染んで、効果が長続きする、みたいな原理らしいんだけど。
当初、神菜が効果時間が1時間ほど長く続くと云う形でその効果が表れた。
それから、日が進み、治験を重ねる毎に、効果時間が延長していった。
1週間程で8時間の拘束時間を超えて効くようになり、いよいよと、研究者側も本格的に動き出した。
まず、これは予想されていた効果らしく、夜、眠っている時に効果がどう表れるか分からないので、拘束帯を装着する方法の説明が行われた。
薬が身体に馴染んで、と云うより、薬効が若干ながら残っている状態で毎日服用するから、そんな結果が表れるんじゃないのかとは思った。
晴海先生には、その話もしてみたが、それも想定の範囲内だと云う。
3週間で効果時間は24時間に届いたか、その前後になった。
それまでにも、俺たち他の治験者も効果時間の延長が見られ、俺もその頃には12時間程度の効果時間を実感していた。
一か月目が過ぎた時点で、俺も効果時間が24時間を超えるようなっていて、拘束帯のお世話になっている。
問題は。
治験を行うには、薬を飲まなければならないのだが、効果が切れる前に服薬するのでは、効果時間が分からないと云う点だ。
ココで、治験に新たな条目が加わった。
即ち、『薬の効果が切れてからの服薬』による治験だ。但し、当初は32時間を最大の間隔としてだ。
ここに来て、俺は薬を転売すると云うアイディアの放棄を考え始めた。
どう考えても、服用し続けた方が有効である。むしろ、自分で買って毎日飲むという手段も検討に入れる。
……これ、ひょっとしたら物凄い人気商品になって、入手困難と云うレベルまで売れるんじゃねーの?
日頃の便利を取るか、お金を取るか。それが問題だ。
『お金』と云う概念も、大概に便利な概念だからな。どっちを取るのが正解、と決めつけられるものではない。
俺は、この究極の二択に向かい合って、薬の価値や便利さと、入手困難ながら、『空を飛べる薬』と云う怪しいパワーフレーズを並べて、自力で買ってでも服用を続ける道を選んだ。
この決断が、後に吉となるのだが、とりあえず今は、ここまでのお話。