第20話 屋外飛行
「本日より屋外治験を行いたいと思います!
皆さん、くれぐれも安全への気配り、お忘れなきように願います!」
その日は、初めての屋外治験だった。
文字通り、空を飛べる!
その浪漫に、あの歌を歌いたい気がしてきた。
「BGMにするなら、あの曲だな」
神菜は――そう呼べと言ってきたので、俺も吾郎と呼べと言っている――は、曲に見当がつかないのか、一節歌って聴かせる。
「へぇ、それは確かにピッタリな曲かもね」
「だろう?」
「でも、あなた、歌はヘタクソね」
「言われんでも分かってるわ!」
カラオケは、3年前に卒業した。未熟なまま。歌声を出せないと云う事態にまで落ち込んで、今でもまだ上手く歌えない。
バイタルチェックを受けて、服薬を確認される。そしたら、屋外へと出る。
「ふわぁぁぁぁ、気持ちいい~」
空を駆け巡る、爽快感。
自由を感じる!
素晴らしい、感動を覚える!
でも、30分もしたら浮力が減ってきて、地面に近づいてくるんだ。
ちょっと物悲しいけど、俺は大変素晴らしい経験をした!
「気持ちよかったのに~」
神菜も口調は不満げながら、表情は満足げだ。もっと飛んでいたかったのだろう。
それから、少しのお菓子を用意され、口寂しい者は貰いに行く。俺も神菜も、少し貰いに行った。
間も無く、昼食だった。
俺の選んだ料理は、『柳川鍋』。なぜ、こんな場所で泥鰌が食える?と疑問だったが、中々精のつく料理で、十二分に美味しかった。
何でも、強者は生で生きたまま一本食いすると聞いたことがある。勿論、泥抜きをした奴をだ。
古くから食べられている魚で、昔は『どぜう』と呼んだらしい。
ただ、現在は生息域が狭い魚で、柳川鍋は四人前しか置いていなかった。
やはり、鰻の方が人気が高いのだろう、倍を超える10人前は俺が見た時点でも置いてあった。
鰻なぁ。美味しいし好きなんだけどなぁ。
御飯が進み過ぎてしまうのだよ。
そう思ってお腹を撫でる。
さて、午後は部屋から出てはならないが、トイレも風呂も無料喫茶もある。
そして、神菜との決闘の時間だ!
なんだかんだ言って、拘束時間も楽しみを見付ければ楽しく過ごせるのは、仕事として大歓迎だ!
そして、俺は神菜相手に『The Death』を選ぶと云う暴挙に及び、『The Fool』にボッコボコに瞬殺されるのであった。