第17話 『生きたい!』
「丁未!十干能力発動!十二支能力発動!
大アルカナ『The LOVERS』終了、勝利!」
また滝沢さんに負けた……。
今、俺たちは飛翔薬の治験として、地面から少しだけ宙に浮いて横になったまま、カードゲームをしていた。
「何で勝てないんだろう……」
「まずは十干能力と十二支能力を全て覚えることね!それと、対戦相手の出したカードを利用すること!
最低限でも、その二つは必須よ♪」
「相手のカードを利用って――滝沢さんは、自分のカードを利用されるところまでも計算の上でプレイしているんだろう?
そこまでは、必須能力に含めて欲しいね!」
「いきなり一足飛びに成長は出来ないわ。まず、相手の出したカードを利用することをしなければ、ソレすらも読んでは出来ないわ」
なんでこんな体勢を取ることが出来るのだろうとは思うが、どうやら斥力とやらは、体全体に影響するようだ。なので、無理をしてこの体勢をしている訳では無い。
「難しいなぁ。もう一勝負!」
「他の人に勝って来なさい。『負け癖』がついたままで、私に勝てるなんて思わないことね♪」
「クソッ!勝って来てやる!」
このゲーム、十干十二支の60枚のカードと、タロットカードの『大アルカナ』の22枚のカードで成り立っている。
そして、十干十二支のカードには付随する能力があり、手札に引き、手元に待機させ、カウンターが溜まったら場の六芒星の頂点に置くことで進行する。
場合によっては、毎ターンカウンターが溜まる『ヘキサー』カードの能力で十干十二支能力を発動させることもある。
最終的に、大アルカナに指定された3つの十干十二支カードが六芒星の3角形の一つを形成した時に、大アルカナを公開し、勝利する。
この時、十干十二支の指定は、十干のみの指定であったり、十二支のみの指定であったりすることもある。
例えば、『The World』の場合は『木(甲・乙)』、『寅』、『丙辰』の三要素から成る。『甲寅』は、二つの要素を併せ持つ。つまり、『甲寅』と『丙辰』の二つが揃えば、『The World』で勝利する。
この際、『The World』の大アルカナは勝ちやすいカードなのだが、例えば『The Fool』の場合、ちょっと条件が厳しい。
即ち、『火(丙・丁)』、『午』、『丙午』なのだが、『丙午』単独で勝利、とはならない。飽く迄も、『丙午』の一条件のみ達成となり、別に『火(丙・丁)』、『午』を揃えなければいけない。
事実上、『The World』よりも勝ちづらい大アルカナとなる。
但し、共用して一つのデッキで戦うのではなく、各自がカードセットを持ち合わせてそれぞれのデッキで戦ったりすると、『The Fool』も『丙午』二枚で勝てることになる。確率は低いが。
そして、初期、控えカードが3枚与えられ、それに基づいて『大アルカナ』を選ぶのだが、素直すぎると読まれる。でも、そうするしか、初心者の今の俺には戦略が立てられない。
まぁ、控えカードは当初、伏せ札だし、十干能力、十二支能力を使わなければバレないし、その代わり、十干能力か十二支能力を使った後でなければ配置出来ない。
それはいいとして、対戦相手を探さなければ。
とは言っても、いつも遊んでいる相手が手隙であれば、挑むだけなのだが。
正直、滝沢さんと比べると、どいつもこいつも物足りない。
そして、俺に不本意な二つ名が付いた。
即ち――『死神』と。
待って欲しい。確かに、俺の『死神』での勝率は高いが、肝心の滝沢さん戦で選ぶのが優位なカードが来ないから選ばなくて、勝ててないと云う事実はあるものの。
『The Death』での勝率が高いからと言って、『死神』扱いは止めて欲しい。いや、神だけど。
でも、本来は『13』は、王様の数字で縁起が良い筈なんだ。
ソコに『死神』を仕掛ける、センスの悪さ。――いや、王様は気に食わない奴を簡単に殺すから、確かに『死神』かも知れないけど。
俺は、『帝』を名乗った事はあるが、『王』を名乗った覚えは無い。
『帝の数字』は、恐らく16か18だ。――恐らく18だろうな。16は『女帝の数字』のような気がする。
――マテ。タロットカードで、『女帝』は3で、『皇帝』は4だ。16は『塔』で18は『月』だ。
だが、俺は『帝』と言った。『皇帝』とは言っていない。
故に、『帝』の数字は18で、『月』――即ち、ツキに恵まれていると云う事では無いか?
恐らくは亡き父親がだと思うが、俺を必死に幸運へと導こうと動いていたのを感じた事がある。
最終的に、幸運すら濁すと云う結果だったが、それは『豪運』に繋がらないだろうか?
『このままでいい』。そんな気がする。
自ら、流れは創る。その必要性は感じるが、流れに逆らう必要性をあまり感じない。
或いは、流れを創る事は流れに逆らうことと屁理屈を捏ねる奴も居るとは思うけれど、流れはそもそも、『流される』ことではなく、『自ら流す』ことによって、作るものだと俺は思う。
俺はかつて、『最早、世界は自動的に流れる』と云うような内容の発言をしたことがあるが、『自動的』は、『自ら動く的な』流れだと捉える事が出来る。
つまり、流れは自分で作らないと、上手く流れてはくれないのだ。
『浮気した』的な評価を下された事もあるが、会ってもいない女性に向ける想いを、他の方向性に変えることが浮気なら、そもそも俺は本気になった女性は一人しか居ないし、その相手とは結ばれなかった。
もしも未来に出逢う女性に運命を感じても、自らの収入に自信が無いのであれば、俺は何度でもチャンスを逃すだろう。
その、イチイチ全部の想いを全て浮気と言うならば、俺は気持ちだけ浮気することを許してくれる相手しか、迎える事は出来ない。
でも、最低限の基準はあって、ソレを完璧に満たす相手を見付けたと思ったら、自らの生まれの原因で、完璧すぎるが故に、恐らくは俺が嫌われると云う結論に辿り着いた。
故に、今は滝沢 神菜さんにターゲットを絞っているが、一瞬後の約束も出来ない。
違う世界線上の自分が、どんな相手を好もうが、ソレは其方の世界線上の女性を選ばなければ、全ての世界線上で全て同一の相手を想うとか、不自然すぎて気持ち悪い。
本当に運命の相手が居るならば、ソレは出逢った瞬間、お互いに心惹かれるものがあり、少しずつでもお互いに歩み寄って行くだろう。
その相手として、今の俺は滝沢 神菜さんを選んだのであって、別の瞬間の別の世界の自分が誰を好むとか、分かる筈がない。
それを皆は『浮気』と呼ぶのだろう?
でも、その完璧な人は、完璧すぎるが故に、多くの皆の完璧なのだ。そして、俺には残念ながら、嫌われる要素が幾つも思い浮かび、向こうからの完璧にはなり得ない。
それに、俺は幸せを『勝ち取る』事を重視している。最も好きな人が、最も自分の伴侶と求める相手では無いのだ。
そりゃ、浮気とも言われよう。でも待って欲しい。俺、いつ付き合った?ゲームに付き合ったとかではなくて、男女の仲として付き合った?
付き合ってもいない人を挙げられて、浮気をしたとか言われるのは、非常に心外だ。
どうせ、皆、俺をイジメたいだけなのだろう?ソレが、『世界の終わり』へと導く切っ掛けになろうとも。
全ての世界を道連れにされても良いのなら、そのまま俺をイジメ続けろよ!その為の禁呪は、30年も寝かせて、切っ掛け一つで動くぜ!
だが、全てのイジメを止めて、平和的な解決を誓ってくれるのなら、世界の寿命を果てしなく伸ばすぜ!
一度、『生きたい!』と言ってみろ!ひょっとしたら、その一言だけで、世界は平和的で恒久的に続くぜ?
俺は生きたいよ?自分で自分を呪う、人生で最悪のイベントを終えたから、次にソレを超えるものが来るなら、即ち生命的に死ぬと思うし。
俺は生きたい!皆、改めて考えてみろよ!
きっと、消え去りたいだけで、死にたい筈は無いんだ!
そして、『生きたい』と言えば、消え去りたい自分は消え去ってくれて、本当に『生きたい』と思うエネルギーが湧いて来るんだ!
試してみろよ!簡単な事だろ?ただ、生きたいと思い、生きたいと言えばいいだけだ!
世界のクリエイターは、ソコに魔法のような力を込めているんだぜ!
一度体験すれば解るよ、残念ながら、一度しか体験出来ないみたいだけど!
俺は生きる!命尽きるまで!でも残念ながら、物語が終わったら、約束を受けることは出来ないみたいだけど!
例え違う世界線上に行っても、生き続けることを誓う!もう二度と、命を捨て去ろうとはしない!
だから、皆、『生きたい』と言ってくれ!ただそれだけで、希望が湧いて来るんだ!
俺も、『不殺の死神』として、皆の長寿と、寿命が来たら速やかに苦痛を積み重ねないように、その命を刈り取るから!
どうか、世界の皆が、『生きたい』と願い、そして、罪を犯すことなく生き永らえますように……。