第14話 凄くクリアな味
「これ、面白い!」
滝沢さんは、宙返りなんぞをやっていた。
まさか、もう自由自在に操れるのか!?
若干、「負けた」なんぞと思いながら、出来る限りの制御を頑張る。
10分後、滝沢さんは翼の羽ばたきも制御し、室内からは出ないものの、室内という範囲内なら、羽ばたきの制御で、誰よりも上手に飛んでいた。
俺は羽ばたきも出来ず、宙返りも出来ない。ただ、上下の移動は、思い通りに制御出来ていた。
服薬から、47分が経過。薬の効果が徐々に消えるのと共に、高度を保てなくなって来る。それでも研究員は、「地面に降りて下さい!」と言って回る。
天井は、こういう部屋の使い方を想定してだろう、3メートル半程もあるが、頭から落下でもしない限り、死ぬことはあるまい。
俺も、地面スレスレを浮く練習をしていた。
出来れば、羽ばたきの制御もしたかったのだが、今のところ、一度も羽ばたいてくれなどしない。
しかし、俺などまだ良い方だった。
宙に浮くどころか、翼さえ生えない者が、2割ほど。
更に翼が生えた者の1割半程は、2錠目の服薬が必要だった。
それでも、滝沢さんほど上手に制御出来た者は、他にいなかったが。
俺ぐらいの制御しか出来ない者の方が、圧倒的多数だった。
ただ、俺的には十分に満足だった。自力だけで宙に浮くと云う体験は、素晴らしく興奮的な出来事だったからだ。
水筒に入れて来た紅茶を飲みながら、俺は余韻に浸る時間をしばらく過ごし、カップを調達してきた滝沢さんにも紅茶の提供を求められたが、そんなことは全く苛立ちにならない程の充足感に浸っていた。
昼飯には、ウナギを食べた。
正直、それを見付けた時は、疑問に思った。メニューとして、そんなものがあっても良いのかと。
しかし、よく見てみれば、今日のメニューは、総じて中々の高カロリーの品が多かった。
恐らく、空を飛ぶと云う行為が、かなりのカロリーを必要とするのであろうことを、俺は気付いた。今度、質問してみようと思う。
昼食後は、滝沢さんに求められ、カードゲームの対戦で時間を潰す。
夕食後に問診等を受けて、その日は解放された。
帰りに低ミネラルウォーターを購入していくと、滝沢さんはついて来た。
「――凄くクリアな味がする」