第7話 反発する原因
「――どういう事ですか?」
滝沢さんは、睨むように晴海先生を見た。
「――言いたくないと言いましたよ?」
「俺が言っちゃ、駄目ですか?」
治験には協力するが、心理的には、俺は滝沢さんの味方だった。
「推論で言う事を、禁じても無駄でしょうからね。
個人間で話す機会を奪うことまではしませんから」
「つまり、言って欲しくない、と」
「ええ、勿論」
滝沢さんの刺すような視線は、今度は俺の方へと向けられる。
「――言って」
彼女には悪いが、俺の立場は『治験への全面的な協力』だ。少なからず好意を抱いている相手だが、俺は感情に左右されずに、正しい判断をしたい。
勿論、晴海先生の側に非があれば、俺も滝沢さん側の立場を選んでいたかも知れないが。
「俺は、治験には協力するぜ?条件良いし、感情的に考えなければ、協力した方が絶対に得だ。
でも、感情的にはアンタに協力したい」
「だから、言いなさい!」
流石、女王。ちょっと怖い位だ。そんな彼女を「良い」と思う俺は、何処かおかしいだろうか?
「――治験に協力しようぜ。そしたら言う」
「何故、協力を求めるの?」
「だって、空翔べるんだぜ?きっと、スゲェ気持ちいいぜ?」
「……百歩譲って、付き合ってあげても良いわ。だから、言いなさい」
俺は、肩を竦めた。気の強そうな女性だ。それでも好意は揺るがないが、そんな付き合いは、長く続かないこと位、知っている。
「それは、実力で勝ち取るさ。
第一、俺がお前を好みだと言ったか?必ずしも、俺はアンタに付き合って貰う事が利益ではない」
いや、本音を言えば、とても好みで、そして、とても大きな利益だけど。
「治験に協力する事は、あなたにとって利益なの?」
「説得出来れば、評価が上がる。治験の成功への協力にな。
見返り云々じゃない。俺の仕事は、治験の成功に協力する事だ」
それに。
言わなかったが、滝沢さんは、晴海先生と衝突するのは、ある意味、当たり前だ。
性格の性質が、同じ性格の同性と、同じ集団にはいられないタイプなんだろうと感じる。
だから、俺の様な潤滑油がいなければ、協力することそのものを拒絶してしまっても、仕方が無い。
特に、指示される側の立場にある滝沢さんは、それだけでストレスだろう。
間違い無く、滝沢さんは同じ研究をしていたならば、晴海先生と似たような女性になっていただろう。
そうなっていなかったことが、俺には好ましいが。
「――あなたの話を聞いてから判断しても良い?」