第4話 オリジナルゲーム
「このゲーム、知らないですよ?」
「あー、大丈夫。この島にしか無いゲームだから。皆、初心者だよ。
僕はあまり強く無いけど、『女王』を紹介しようかい?ルールを教えて貰うと良いよ」
『女王』?……女性なのか。
十数人が集まる中に、女性は3人いた。どの子も、一癖ありそうな感じだ。
「どうする?」
「あー……はい。お願いします」
「了解。
神菜ちゃーん」
「はーい、ちょっと待ってー」
3人の内、最も俺好みの子だった。
可愛いと云うより、美人。但し、男に興味が無さそうなタイプだ。
呼ばれてから、一人でカードを早回しする。対戦相手は、手札が無いのだろう、打つ手は無さそうだ。
「はい、大アルカナ・ステップ。勝利宣言『Wheel of Fortune』。終了!
片付けておいてねー。
なぁに、店長~?」
その子は、ゲームに勝ったらしく、荷物を持って、こっちに近付いて来た。
「この子に、ゲーム教えてあげてよ。カードは最初、レンタルで。やる気が出たら、購入を勧めてくれるとありがたいなぁー」
「いいよー」
俺は手を引かれて、空いている席に座らされた。
手を握られた瞬間はドキッとした。
こんなに無造作に、女性から手を握られた事は無かった。
恐らく、そう云う事に無頓着なのだろうが、心臓がバクバク言う。
その手は、少しザラザラしていて、こんなゲームに興じているのに、家事をしっかりとしているのであろう事が想像された。
俺には、下手に柔らかく白魚のような手より、よっぽど好感が持てた。
一瞬、彼女との家庭を想像してしまった位だ。
なのに、彼女は俺のそんな気持ちに気付くような事も無く、俺を席に座らせ、カードの準備をしている。
「お、俺、石川 吾郎。君は?」
彼女の名前が知りたくて、まず名乗った。少し、どもってしまった。
俺は、自分で想像していたよりも、よっぽど緊張していたようだ。
「私?滝沢 神菜。未だ無敗。ココでは、『女王』と呼ばれているわ。
あなたが私に勝てたら、付き合ってあげる」
「――いや、別にいいけど」
半分は、強がりだ。でも、心の中では「3ヵ月以内に、絶対に勝ってやる!」と誓っていた。
「大丈夫。勝てないから」
ルールを聞いて、何となく覚えて、2・3回回して、進行方法を覚えた。しかし、全く勝てそうな気配が無かった。
彼女の事が気になり過ぎて、集中力を欠いていたせいもある。
「ルール、覚えた?じゃ、他の人とやってみる?」
「んー……うん。一回でいいから、勝ってみたいな」
その日は、そのゲームばかりやっていて、そこそこ勝てた。
でも、あの子ほど強い奴は他にいなかった。
とりあえず、3ヵ月だろうが、暇を潰す手段を見付けた。カードも買って、自宅で研究しようと思った。
そしたら、1セット買ってしまえば、もうほとんどお金が掛からない事が分かり、安心したような、物足りないような……。
そして、何より、彼女との接点を持ち、共通の趣味の話題が出来た事も嬉しい。
勝負を申し込むと、待たされることもあるけれど、出来るだけ、相手をしてくれた。
でも、恐らく向こうに、俺と同じ気持ちは無いだろうことが、残念だ。